扉の向こうはいつも雨
2.本儀式へ
「キャッ。
 ……………ごめんなさい!」

 何か大きな物にぶつかって、それが人なのだと気付く。
 慌てて謝ると柔らかなよく通る低い声。

「いいえ。僕もよそ見してました。
 お怪我はありませんか?」

 地面ばかり見ていた視線を上げて驚いた。
 微笑んで立っていたのは春日部蒼太。
 つまり蒼様だ。

「だ、大丈夫。大丈夫です。」

 手を左右に振ってよろめいたせいで抱えていた資料を落とした。
 綺麗な床はよく滑り、資料を散乱させた。

「ヤダ!
 す、すみません!!!」

 急いで集めると横から綺麗な手が伸びて春日部も撒き散らしてしまった資料を集めてくれる。

 伸ばした腕はシャツの端から時計が覗いた。
 黒い文字盤の下の白い肌、そして赤黒く変色した………痣?
 ほんの一部だけ見えた痣のようなものは資料を渡された時にはシャツに隠れて見えなくなった。

 ぶつけて痣を作るようなおっちょこちょいな人には見えないけど……。

 春日部は視線には気付かなかったようでクスクス笑っている。

「賑やかな子だなぁ。
 はい。これで全部かな?」

 こんなに間近でお話しするのは初めてだ。
 穏やかな春日部にぴったりの低くて優しい声色。
 そして綺麗な白い肌は濃いブラウンの瞳がとてもよく似合っている。

 その瞳に見つめられるだけで鼓動が速くなって顔を俯かせた。

「ありがとうございます。」

「気を付けてね。」

 気遣いの言葉までかけてくれて舞い上がりそうだ。

 もうこれは冥土の土産レベルだね。
 うん。そうだ。土産だね。
 いい思い出に……なったなぁ。






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