扉の向こうはいつも雨
3.生け贄
 ゆっくりと扉は開いて思わず目を強く閉じた。
 恐ろしい姿を見たくなかったし、出来れば自分が食べられる直前の光景を目の当たりにしたくなかった。

 再び静けさが辺りを支配した。

 …………何も、起こらない。

 恐る恐る薄眼を開けると人らしき姿をとらえた。
 妖怪……みたいなおどろおどろしい何かを想像していたけれど、それはそうか辻本家に生まれた長男であるわけで、人間なのだから。

 未だ動き出さない。

 辻本宗一郎。辻本家の長男であるその人を、最後に一目見てみようかと意を決して目をしっかり開けてみた。

 暗闇に慣れていた目はぼんやりと、そして次第にはっきりとその人を映し出す。
 想像していたよりもずっと細くて繊細なそれでいて背が高い……。

「………蒼様!?」

 目の前の人も目を閉じているが、蒼様にしか見えない。

 そんな馬鹿な。

 本儀式が行われているはずで、それにいつもの儀式と同じ場所。

 まさか……。
 助けに来てくれたの???
 蒼様になら攫われたい。

 いや。うん。ダメなんだけど。

 私の葛藤を尻目に、その人は閉じていた瞳をゆっくりと開けた。
 その瞳は怪しく光り、言い伝え通り見た者を凍りつかせる忌わしい力を放つ。

 澄んだブルーと曇りのない薄いブラウン。

 その両眼に射抜かれて体が言うことを聞かない。
 逃げ出したいのに動けなかった。

 蒼様……のわけない。
 すごく似ていて驚いたけど瞳の色と禍々しさが違う。

 儀式の度、扉を開けた向こうから目隠し越しにも禍々しい何かを感じた。
 人を寄せつけない。深い闇。

 動けない桃香に一歩、また一歩と近づいてくる。
 高い背をかがめて扉をくぐり、こちら側に……。

 ほぼ距離ゼロで向かい合った辻本宗一郎。
 神の子オッドアイ。

 あぁ。とうとう食べられるんだ。

 覚悟を決めて目を閉じた。





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