イジワル上司にまるごと愛されてます
第一章 帰ってきたあいつ
 あと十五分ほどで、家具・インテリア雑貨の輸入販売会社・株式会社フィーカの就業時間が始まる。その輸入企画部のロッカールームで、七瀬(ななせ)来海(くるみ)はドキドキと激しく打つ心臓を、どうにかなだめようとしていた。

(ああ、ダメ。やっぱり緊張する)

 膝がガクガクしてその場にくずおれそうになり、開けたままのロッカーの扉にすがりついた。その拍子に、扉裏の鏡に映る、眉を下げた情けない表情の自分の顔が目に飛び込んでくる。

(こんなんじゃダメ)

 来海は背筋を伸ばした。

 一五八センチという平均的な身長と平凡な顔立ちだが、今日はスタイリッシュなデザインのベージュのパンツスーツを着た。しっかりアイメイクで奥二重の目を強調し、まつげも盛って、リップも肌馴染みのいい透明感のあるピンク色を塗った。マロンブラウンのセミロングのストレートヘアも毛先を軽くカールさせて、精いっぱいキレイに見せるメイクをしている。

 来海はロッカーを閉めて深呼吸をした。

(大丈夫。もう二十九歳のしっかりした大人じゃないの。七瀬主任は仕事が恋人。どんなことにも動じない。たとえ、四年前に私を手ひどく振った同期が、上司になって戻ってきても)
< 1 / 175 >

この作品をシェア

pagetop