イジワル上司にまるごと愛されてます
第二章 四年前の記憶
 柊哉の歓迎会の会場は、繁華街の高層ビルに入っているこじゃれたイタリアンレストランで、幹事の社員が広い個室を予約していた。五月下旬の金曜日、レストランは個室もテーブル席も満席のようで、店の外に待っている客の姿も数人あった。

 来海は開始ギリギリにレストランに到着し、店員に個室に案内された。部屋に入ると、美由香の明るい声が飛んでくる。

「来海さ~ん、ここここ!」

 見ると、柊哉の二つ隣の席で美由香が手を振っている。

 来海は美由香に手招きされるまま、彼女の右隣――柊哉から三つ離れた席――に座った。美由香の左側、つまり柊哉の右隣には、輸入企画部のもう一人の主任、三十四歳の木下(きのした)敦子(あつこ)が座っている。敦子は胸元に華やかな刺繍が施された白いエンブロイダリーブラウスに、濃い紫色のミモレ丈スカートを合わせ、ウエストの高い位置で同色のリボンを結んでいた。彼女にしては珍しくガーリーなコーディネートだ。

「七瀬主任、遅いわよ」

 敦子に言われ、来海は小さく頭を下げた。
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