異邦人

入社して一ヶ月が経った頃、同期で集まり飲み会をすることとなった。入社当初は百人程いた同期も今はすっかり半数に減っていると知って「最近の若者は根性がない」という黒川係長論も当たってはいるのだなと思った。
新宿にある某居酒屋に落ち合った。店内には中年のサラリーマン、大学生の合コン集団、アラサー女子会といった今を生き抜く色とりどりのさまざまな人種が集まっていた。店内は騒がしいくらいに賑わっていたが、日々の苦しみから解放させれた者達の狂喜が雑音となって伝わってくると妙に親近感や安心感を感じさせた。

人数が多いため皆が集まって座ることが出来ず、4人ひと組に固まって適当に座った。
俺の前に橋本と木下の女性陣、そして俺の隣に男性の藤井が座った。
 「まずは、乾杯~!」と言って皆が届いた生ビールを一口飲んだ。
「いや~どうよ、仕事は」
「全然ダメ。もう辞めたいんだけどー」と
最初は仕事の愚痴から始まった。木下はお局に目をつけられてるらしく、日々嫌な思いをしながら仕事をしているということ。橋本は輸出乙仲で働いているが業務量が膨大であることと他責トラブルに振り回されるため帰りが遅く辛い日々を送っているということ。それぞれがみんな仕事に対して不満を抱いてた。
 「増田はどうなんだよ」
「え?俺?」
「なんか増田くん悟ってるからあんま悩みなさそう」と木下が言った。
「そんなことねーよ。正直ずっと書類作成ばかりでつまんねーし」
「書類って?」と藤井が聞いてきた。
「通関書類」
「うわ、格好ええー!」
黙々と仕事をする以外、特に変わったこともないので人を楽しませるような話のネタがなかった。それに俺は自分の話をするよりも人の話を聞いてる方が好きだった。

「そうゆう藤井君はなんもないの?」と橋本が聞くと「え?俺?」と言って藤井は少し考えると「そういや、今年31歳のオバさんがうざいんだよなー」と応えた。俺は、今年31歳というキーワードに反応して藤井を見た。「なんか俺に気があるらしくぶりっ子してきたり、触ってきたりして正直うざいんだよな」と言ってその女性を思い出したのか歪んだ口をしてタバコを吹かした。

「えー31でぶりっ子ってないわよねー!ってか偶然!私んとこのお局も今年31なんだけどー!ってか、その歳で結婚できないから私のような若い子に厳しいのよー。絶対!」と木下も楽しそうに言った。しかし、橋本は二人の意見を真っ向から否定するかのように「でも、うちの部署にいる今年31歳の女性社員は面白くて綺麗な人だよ」と言った。俺は、木原さんのことだとすぐに分かった。
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