ツンデレ黒王子のわんこ姫

初デート

午後16時、途中でトイレ休憩をはさみながら遊園地に到着したのは、日が傾き始めた夕方だった。

エントランスはアフター6を楽しもうとする親子連れやカップルでごった返していたが、健琉がスマホを入り口でかざしただけで、すんなり中に入ることが出来た。

「並ばなくていいんですか?」

「スマホでチケット購入できんだよ。常識だろ?,,,あー、お前には常識が通じなかったんだっけ」

健琉にそう言われて、芽以は悲しそうに俯いた。

「馬鹿、そんな顔すんなよ。そんなん俺が知ってればいいだけだろ。」

健琉は、芽以の頭をポンポンと叩いた。

「ほら、時間がもったいないから行こうぜ」

健琉は、恋人繋ぎで芽以の手を取ると、店が立ち並ぶアーケードに入って行った。

「凄い、全部可愛いです」

芽以は子供のようにはしゃいで、左右に並ぶ専門店を気にしている。

やはり、餌を前にした健琉の実家の飼い犬ようだ。

「今からだと、アトラクションは少ししか乗れないだろうからお土産は後だ。パレードも見たいんだろ?」

「はい」

「何に乗るかこれ見て決めろ。待ち時間が長いんだから」

健琉は芽以に園内マップが載ったパンフレットを見せた。

またもや、それを覗き込んで、芽以がピッタリと健琉に身を寄せてくる。

"ち、近い"

健琉はそう思ったが、今は婚約者同士。恋人としての距離なら申し分はない。

健琉はそっと芽以の頭に顔を近づけた。

「ねえ、見て、すごく可愛いカップルがいるよ。」

今日の健琉はジーンズに白シャツ、黒いカジュアルなジャケットを身に付けており、芽以と並ぶと大学生のカップルのようにも見えた。

側にいる高校生グループが、自分達のことを話しているのが聞こえる。

芽以はパンフレットに夢中で全く気づいていなかったが、健琉はまんざらでもなく、芽以の肩にそっと腕を回した。

「きゃあ、羨ましい!」

シンデレラ城が大好きなお嬢様方には憧れのシチュエーションなのに、当の芽以は全く状況を理解していない節がある。

「このボートライドと、鉱山列車に乗りたいです。」

目を輝かせて芽以が言うと、健琉は苦笑しながら

「仰せのままに、お嬢様」

と芽以の耳元に唇を寄せて囁いた。

近くでまた、女子高生の歓声が上がるのが聞こえた。
芽以は顔を真っ赤にして健琉を見つめ返している。

健琉はクスっと笑って高校生のグループに目線をやると、目的地に向かって、芽以の手を引いて歩き出した。

「ほら、モタモタすんな」

芽以は慌てて健琉についていく。

スマートで意地悪なフィアンセの時おり見せる激甘な態度に、芽以は振り回されているのが少し心地よかった。

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