甘い運命

1-3

一瞬、何が起こったか分からなかった。

外を見て腰が抜けてからのことを反芻。
で、今、三上さんに後ろから抱き締められている形だと。

───………抱き締められてる?!!!

「◯△×□!!!」

あえて音にすると、『うひゃはへっ』だろうか。
言葉にならない叫びを上げて、私は身体を離そうとして振り向き、三上さんの見た目よりがっしりした胸を押した。

「すっすみませんでした!ありがとうございます!!」

言いながら押すのに、何故か三上さんの腕は、私を抱き締めたまま。

「あ…あ、あの、もう大丈夫ですので離して頂けますか?」
「えーやだ。」

やだ?!
やだって言ったこの人??

「あー、なんか癒される。暫くこのままでいてよ。」

……イケメンが私の髪の毛に頬擦りしてるんですが!
更に固まる私。暫し、三上さんの思うままスリスリされる。

「橋本さん抱き心地いい。縫いぐるみみたい。」

言いながら、三上さんは私を抱き締める腕に力を込めた。

私は熊か?あの熊さんなのか??
◯ディかプ◯か聞いてみたい。

──いや、違う。そうじゃないでしょ私!
ここはお局ぽっちゃり女子として、怒るべきだ。
一応、妙齢?の女性なんだから。

でも、このクールイケメンが縫いぐるみにスリスリしてるとか。
……ダメだ、想像したら可笑しすぎる。

「っくふふっ」
「笑うな」

ちょっと拗ねたように、三上さんは言う。
しばらく笑って、ハタと自分の状況を思い出す。
いや、これはイカンでしょ。

「そろそろ離して貰えませんか。縫いぐるみっぽくても、一応人間の女性ですので。セクハラですよー!」

冗談っぽく言いながら、三上さんの腕をほどこうと、身体を離す。
目が合うと、三上さんは微笑んだ。

「一応、じゃなくて、ちゃんと女の子でしょう?」

その笑顔が綺麗で、いつも男扱いされてる身には、その言葉が新鮮で。
どきん、という心臓の音とともに、また顔に熱が集まる。
できるだけ自然を装いながら、目を逸らした。
もちろん、室内に。

「女の子という年齢じゃないですが、そう思っていただけるなら、離してくださいねー?
…今日はありがとうございましたー!」

わざと元気に、何も意識していないように。
首まで真っ赤な時点で、無駄な足掻きだけど。
雰囲気が悪くならないように。

離してもらった身体を屈めて、落ちた鞄を拾う。
すかさずドアノブを掴むと、ガチャと回した。

……あれ?開かない。
押しても引いても開かない。
何度も押したり引いたりして、ふと思い立って上を向く。
……やっぱりだ。

「……何してるんですか?三上さん。」

振り返って、軽く抗議の意味を込めて、睨んでみる。
三上さんは、片手でドアを押さえていた。
でも、三上さん自身も戸惑ったような、変な顔をしている。
それでも美形なんだけど。

「……何してるんだろうね?」
「私にわかると思いますか?」
「思わないね。」

テンポよく会話が進む。

「ねぇ、やっぱり終わってからメシ行こうよ。何時でも待ってるからさ。失礼なことも言ったし、お詫びさせて。」

普段のクールな表情に戻って、三上さんが言う。
お断りせねばと口を開く直前、悪戯っぽい感じで、またも被せるように言う。

「今日がダメなら、休日デートにする?」
「は?──!!いえ!ぜひ今日でお願いしますッ!」

『お詫びナシ』という選択肢はなさそうだ。
1日付き合わされたらたまらない。目が潰れる。
改めてとか、恥ずかしくてどうにかなっちゃいそうだ。
今日なら勢い!勢いでいける!!
瞬時に頭で結論を出し、私は叫んで、ゼーゼーと、肩で息をする。
なんだこの展開。

「じゃ、連絡先交換しよう。お互い終わったら連絡ね」

三上さんは、いつも使うものとは違うスマホを、ポケットから出した。

「プライベートだから、会社用のは使えない。橋本さんも個人用の教えてね。」

先に釘を刺される。
わぁお、三上さんのプライベートナンバー。
高値で取引できそう。しないけど。
こんなことを考えてたのは、やはり緊張していたから。
三上さんは、私のスマホも操作して、ささっと連絡先を交換してしまう。
慣れてるなあと思いながら、私はその様子をぼんやりと見ていた───
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