甘い運命

1-6


「昨日、面白かったし。楽しかったし。
俺、都ちゃん気に入っちゃった。
あとね……」

三上さんは、少し迷う素振りを見せた。
そして、思いきったように話し始める。

「あのさ、俺、不眠症なんだ。

10年以上、ずっとうまく眠れなくて。

変な話、女の子と付き合って一緒に寝たら寝れるかと思った時期もあって、その時の彼女と寝てみても、眠りが浅くてさ。

それでも多少は眠れるから、よく一緒に寝てもらったんだけど。
─あ、もちろん、することはしてたよ。」

ニヤリと笑う三上さん。
そりゃそうだろうけど、その情報今要るだろうか?
この年齢になると、セクハラとかって大騒ぎはしないけど。
…ああ、男友達に話すノリだね。了解した。
私はふんふんと頷く。

「いや、都ちゃん、そこは『イヤだ修一さんったら』って恥じらいつつ言うリアクション。」
「……イヤだ修一さんったら。」
「………期待を裏切らない棒読みありがとう。
でさ、話を戻すけど、昨日都ちゃんを抱いて眠ったら、凄く熟睡できたんだよね。今、本当に目覚めスッキリだよ。」

嬉しそうな三上さん。
そうか、迷惑をかけたし、少しでもお役に立てたなら本望だ。
私は素直にそう言う。
すると、三上さんは一瞬複雑な──嬉しそうというか、獲物を捕らえた肉食獸の恍惚ような──笑顔をした後、シュンとした、捨てられた子犬のような表情をした。

「ねえ、都ちゃん。相談なんだけど。
都ちゃんが都合がいい時、もちろん毎日でもいいんだけど。
一緒に寝てくれない?」

「へっ?」

「眠れないとさ、この年になると辛いんだよ。
ホントお願い!!助けると思って!
都ちゃん、彼氏いないって言ってたよね?
助けてよ。」

拝まんばかりに、三上さんが言う。
確かに、眠れないのは辛い。
それは分かるんだけど、腐っても私は女だ。
三上さんも彼女はいないって言ってたけど…。
こんなのって…どうなんだろう。

「もちろん、襲ったりしないよ。」
「そこは全く心配してません。」
「何でそんなキッパリ?!そこは心配しないと。女の子でしょ。」
「いえ、ストーカーがつくほどの三上さんが、わざわざ私を襲う理由がないからですよ。」

当然でしょ、といった感じで、私は三上さんの瞳を見つめる。
はぁぁぁ、と溜息をつく三上さん。
あれ?私、何か間違った?

「まあいいや。とにかく、ただ側で眠ってよ。
抱き枕にさせて。
自分だけでも眠れるようになるまで。

そうだ、お礼に泊まりに来てくれる日は、都ちゃんの食べたいもの何でもご馳走するよ!」

三上さんが必死に言い募る。
……その必死さに、絆されてしまった。
私は溜息をつきつつ、仕方ないですねと呟いた。

ま、いいか。人助けだし。
男友達が多くて、最近はあまりしないけど、飲み明かして雑魚寝とかしてた。
今日も本当に、ただの抱き枕だったし。
この人に何かされる気がしない。
大雑把なO型の私は、軽く頷いて引き受けた。

「じゃ、契約成立だね。」

三上さんは、今まで見た中でも一番綺麗に、ちょっとゾクッとするような表情で、笑った──
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