今夜、シンデレラを奪いに

2 生意気部下の弱点

「本日より企画営業課に配属されました、真嶋夏雪(まじま なつゆき)です」



と頭を下げたその人は、美の暴力かと思うほど美しかった。怖いくらいに均整のとれた目鼻立ち。男性なのに透明感溢れる明るい肌。

目を伏せる度に涼しげな風でも起こしてるんじゃないかと思うほどに長い睫毛が、宝石めいた輝きの瞳を縁取っている。


芸術家によって寸分の狂いなく設計されたような高くシャープな鼻梁と、やや薄い引き締まった唇。それらのパーツを引き立たせる細面の輪郭。


完璧すぎる見た目のために威圧感すら放っているのが唯一の欠点といえば欠点……と思いきや、微笑んだ顔は天使と見間違うばかりの甘さが溢れる。光が射すような笑顔とはこの事だ。


その人の容姿は「夏雪」という名のとおり、現実にはあり得ないような幻想の産物にしか見えなかった。漢字の字面はまるで女性の名前のようだけれど、美しすぎる存在感にはよく似合っている。


かといって、女性のように見えるわけではない。高い背とスーツ姿でもわかる逞しい胸板は直線的なラインでとても男の人らしい。

唯一女性的な部分は、光に当たって輝く柔らかな髪くらいだ。前髪が落とす影すら、計算され尽くしたみたいに綺麗。


その様子に朝からオフィスは大変ざわついた。すごい人が来たなーとため息をついた頃、課長がにこにこと私に近付いてきた。


「真嶋くんの指導は矢野さんに任せるよ。君もそろそろ部下を持っていい頃だ。これからは二人で仕事を進めなさい。」


「私なんかに部下……ですか?」


「ほら、固まってないで挨拶しなさい」と課長に促され、席を立って真嶋くんに向き直る。


「矢野 透子(やの とうこ)です。企画営業課六年目の営業職です。よろしくね」


真嶋くんは片方の眉を上げ、異様なまでの目力を向けた。



「は じ め ま し て。

真嶋です。これからよろしくお願いします。」


ん?なんだか違和感のあるトーンだ。まるで念押しされてるみたいだけど……どうしてだろう。


課長が去った後で隣に座る真嶋くんを振り返ると、不審者でも見るような目付きで私を睨んでいる。
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