今夜、シンデレラを奪いに

幕間 エグゼクティブフロアにて

「昨日トパーズロジスティクス社向けの契約が提出されたことで、事態は大きく動いています。」


静まり返ったエグゼクティブフロアで、高柳宗一郎は伏し目がちに語る年下の上司の様子に首を捻った。彼の目的はもうすぐ果たされるのに、どこか淋しそうに見えるのは気のせいだろうか。


高柳は、エヴァーグリーンの事業部長を務める実力者であり、真嶋夏雪が進める極秘調査について知る数少ない人物の一人である。夏雪はエヴァーグリーンの役員でありながら、存在自体が機密事項の扱いとなっている。


「良かったじゃないか。これで関係者を罠にかけられる。」


本来は敬語を使うべき相手だが、そういう接し方はかなり前に止められている。


「そうですね、案外とあっけないものです」


「これでやっと君の二重生活も終わりか。役員と一般社員両方の仕事をこなすのは大変だったろ。」


「いえ、できるならもう少し長く続けていたかったですよ。」


彼は冗談とも本気ともつかない調子で語っている。「そんなに企画営業課の仕事が楽しかったの?」と聞くと照れたように笑っていた。


「なんとか引き延ばせないかと考えましたが、3日が限度でした。ぐずぐずし過ぎたせいで最終的には上司に怒られまして。」


「いくら楽しくても延ばそうとするのは本末転倒じゃないか。それは社長も怒るよ。」


「社長?」


彼が不思議そうにこちらを見るので「君の上司なんて社長しかいないだろ」と説明を加えると、彼はまた笑った。


「ところで高柳さんに依頼した件ですが、組織の変更案については概ね賛成です。最終案はこちらに。

いつも申し訳ないですが、高柳さんの名前で社内通達を出してください。」


「良いのか?これだとまるで君まで……」


「仮の身分ですから私の扱いは気にせずに」
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