我儘な想い
我儘な想い


「好きです!今日も素敵です!!」

「はぁー。分かったよ。付き合ってやるよ。」

「……。」

「何だ?嫌ならもう二度と俺に近づくな。」

「あの……。え?付き合うって…」


告白めいた事は何度もしてきた。勿論告白も。
でも3回目の告白が失敗してからはもう希望は完全に捨てていて、それでもせめて彼に「彼女が出来たから」と言われるまではと諦めきれずにいた。そして最近では挨拶のように「好きです」を大安売りセールのような感覚で発していたのが現状である。

でも何故?

何故今になって、私の気持ちを受け入れる気になったのだろう…?


彼とは通勤に使用している駅のホームで出会った。
その日はたまたまいつもより早く駅に着いただけだったが…
彼を見つけた。
少しがたいが良くスラットした体格にスーツが良く似合う姿がとても印象的で、何故だか彼をずっと見ていたいと思った。

それ以来、彼をひと目見たいが為に私の出勤時間は20分早くなった。彼はいつも同じ電車に乗っており、ストーカーのように毎朝彼と同じ電車に乗った。


元々積極的な私だが、さすがに朝から男性に声をかける勇気はなく、ただ朝イチで彼を見ては癒されるという日々を多分2ヶ月くらい過ごしたと思う。

それが進展したのは何でもない平日だった。

その日は残業終わりに同期とプチ打ち上げと称してご飯を食べてからいつもよりかなり遅い時間の電車に乗って帰ろうとしていた時だった。

駅のホームにいつもの彼を見つけて、心臓が飛び出しそうになった。


今まで朝に会うことはあっても帰りに会ったことはなく、帰りが何時くらいなのかを全く知らなかったし、彼の家の方向も知らないのだ。(知っていたらかなりタチの悪いストーカー確定だという自覚もある。)
だからこそ、帰りの彼との遭遇は自分が何をしでかすか予想不可能だから怖かった。

彼を見つめる癒しの時間は朝の電車が来るまでと決めて、朝ホームで電車が来るまでの数分間彼を眺めた後は彼とは別の車両に乗っていた。

すでにれっきとしたストーカーである。


だからこそ、彼をただ眺めることだけで満足しようと自分を宥めていた。


どうしよう……
声、かけたい…

でも、仕事終わりで朝とは違い疲れた様子の彼に声をかけてもいいものだろうか…?

でも、彼を観察するだけの日々を2ヶ月も過ごした自分は偉いんじゃないか…?

とか色々な葛藤をしながらもやはり積極的な私の方が強かったため、彼に声をかけたのだった。


というか、声をかけるとかそういう軽いものではなく、私がしたのは告白だった。


「ずっと見てました。私と付き合って下さい!」


彼は少し驚いた顔で私を見下ろした。
そして、意地の悪い笑みを浮かべて言ったのだ。

「誰?」


初めて聞いた彼の少し鼻にかかるような低くセクシーな声と、私を写した瞳、そして意地の悪い笑み全てが私を更にめろめろにしてしまったことは言うまでもない。



それからというもの、私は彼に会う度に(会えるように時間を合わせているだけたが…)声をかけて自分のことを話したり、彼のことを聞き出したりするようになった。
彼はほとんど自分のことについては教えてくれなかったのでプロフィールを完成させるまでに1ヶ月も費やしてしまった記憶が蘇る。




ああ、いけない。
回想している場合じゃなかった…
というか、さっきの言葉も私の妄想上の話で現実じゃない可能性の方が高い。
だって、彼に声をかけたあの日から半年くらい経とうとしている。
今更付き合えるとは微塵も期待していない。


「おい、聞いてるのか?付き合うのか付き合わないのかさっさと決めろ。」


「……。」


やはり現実のようだ。
余りにも予想外の展開に頭がついていかない。
これはどういう意味の"付き合う"お誘いなのだろうか?
あまり期待し過ぎて後からどん底に落とされるのは辛いものがあるが、せっかく彼の頭が少しおかしくなったのならこの機会に付き合ってみようかな。
うん、ラッキーだと思うことにしよう。

「じゃあ、よろしくお願いします。」


私は軽い気持ちで誘いに乗った。








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