〜starting over〜
お母さんも親戚の結婚式とか特別な日の前日とかにしか使わない代物だ。
仕方ない。
自分の手持ちの低価格の化粧水をた~っぷりコットンにしみ込ませて、顔じゅうにパックのようにのせる。
分相応に、てね。
いっそメイクもしたら、真輝を取り巻く女の子と張り合えるかな?
……ううん、ダメだ。
他の子と一緒の土俵では、私は勝てない。
私は私でいなきゃ。
棚からヘアゴムを取り出すと、髪を高い位置でポニー―テールを結い上げる。
気合を入れる時は、必ず高い位置で髪を結ぶのが私の鉄則だ。
何て言うの?
頭の先をキュッとさせると、身も、気持ちも、引き締められるって感じ?
学校は私の戦場だ。
気を張ってないと、へし折られてしまう。

いつもより少し早めに家を出て、登校中に気持ちを高めておく。
少し小高い坂の上にある学校。
寝不足で若干重く感じる身体には少し堪えるけど、意識は研ぎ澄まされたように明瞭だ。
学校が近づくに連れ、背筋が伸びる。
だいたいこの時間に真輝は登校してくるはずなんだけど……。
校門に近づくにつれ、辺りに視線を飛ばす。
気力体力気合、十分。
どんな女子にも負けないわ!
一先ず、他の学生の邪魔にならないよう、気合をいれて自転車置き場の端で待つことにした。
だけど。
待てど暮らせど、真輝は登校してこない。
同じ制服を何十人見送っただろう。
時間だけが過ぎていき、とうとう予冷が響き渡る。
パンパンと膨らんでいた風船が、空気が抜けてどんどん萎むように。
私は、縮んだ気合袋を引きずって、教室へと向かった。
相変わらず好奇な視線にさらされながら、玲奈を探すけど、席に姿がない。
あれ?
握ってたスマホが震えて、見ると真輝ではなく玲奈からラインが届いた。

『寝坊したから、遅れてく!』

ちょっと上がった脈拍に、小さく息を落として席に着く。

「玲奈、今日休み?」

隣の席の島田君が話しかけてきた。

「ううん、寝坊したけど来るって」
「あいつ、しっかりしてそうで抜けてるとこあるよな」
「だね。ところで……真輝は、今日休み?」
< 10 / 104 >

この作品をシェア

pagetop