敏腕メイドと秘密の契約
狙い

藍が、倉本家と倉本SEに潜入したのは先週の金曜日。

その日、藍は"副社長第2秘書:木村良子"として倉本SEの社員に紹介された。

その夜、天音の両親と倉本家の使用人に"天音の婚約者:井上弥生"として挨拶をして、天音との共同生活を始めた。

共同生活といっても、

天音の両親と食事を終えたのが21時を過ぎていたため、藍も天音も早々に部屋にこもり、就寝することになった。

就寝前に、天音は、

「明日は朝早くから顧客との取引のために九州に飛ぶ。だから朝食はいらない」

と語った。

天音は、土日は出張のため、戻りは日曜、最終便の飛行機になるらしい。

出張には、第一秘書の田之上一真が同席する。

通訳が必要な出張ではないので、第2秘書の"木村良子が付き添う理由はない。

土日、藍は天音の婚約者として、天音の両親や使用人と親睦を深めながら情報収集を開始した。

同居開始後の2日間はほぼ別々に過ごした。


そして、今日は、週明けの月曜日。

無事に、お得意様を招いての企業見学会を終えた。

後は、国内外のゲストを招いた、新製品お披露目のためのレセプションパーティを成功させるのみだ。

現在、夕方の15時。

パーティの開始は19時と聞いている。ここから会場のホテルまでは徒歩で5分。

天音と田之上、"木村(藍)"は、パーティの終盤にお披露目する新ソフトウェアの作動確認のため、早目に会場を訪れていた。

「天音さん、ちょっと!」

ステージ裏で、コンピューターシステムを作動させていたスタッフの一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。

そして、天音だけをステージ裏に呼び出すとコソコソと天音に耳打ちをしている。

次第に天音の表情が曇っていく。

しばらくして、天音は秘書二人の元に戻って来て言った。

「木村、ちょっと来てくれ。田之上は、ホテルのスタッフとの打ち合わせを頼む」

田之上は、いつもの坦々とした様子で頷くと、ホテルの責任者の元へ向かった。

木村(藍)は、天音についてステージ裏に移動する。
天音は、木村(藍)の耳元で何かを囁くと、

「ここは、俺が何とかするから君たちは、他の作業にあたっていてくれ」

「でも、天音さん一人じゃ」

「大丈夫、俺がメインで作ったシステムだ。木村は会社との連絡のためここに残れ。」

そう言って、
天音は、木村(藍)以外を部屋から出してしまった。
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