ホテル御曹司が甘くてイジワルです
プロポーズは星降る夜に
 


―――その日、俺が小さなドームの中で星空を見上げたのは、ただの気まぐれだった。


新しい事業の候補地の視察のために秘書の遠山とやってきた港町。
目的の古い商館や周辺の様子を念入りにチェックしているうちに、海からのつめたい風に吹かれすっかり体が冷え切ってしまった。

白い息を吐きながら商館の前にある大きな庭に立つと、古い石造りの倉庫に温かな明かりが灯っているのに気が付いた。
入り口に下がるレトロな真鍮の看板には『坂の上天球館』と書いてある。

天球館……。プラネタリウムか。

石の倉庫の横にある丸い天井を持つドームを見上げて納得する。

「副社長、入ってみましょうか」

遠山の言葉にうなずいて入り口に進む。


平日の夕方。
ぽつりぽつりと座席が埋まったプラネタリウム投影室の一番後ろの座席に腰を下ろすと、綺麗な黒髪を後ろでひとつまとめた女性が入ってきて投影機の操作卓、コンソールへと上がった。


 
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