生け贄の踊り子は不遇の皇子に舞いを捧ぐ
その後……

51、新皇帝誕生

 生贄の巫女は戦場で神に捧げられたと人々に伝えられた。
 巫女は帝国軍の勝利を願い、自らに刃を向けたのだと。

 人々は若くして命散らした巫女に涙する。そして帝国軍の快進撃は神のご加護と噂する。

 タウルス戦役の英雄セリウス・マイウスが率いる軍は、ラティナ守備兵に志願兵が加わり、占領されていたラティナ近郊の丘を瞬く間に取り返した。
 防衛線を築き、それをタウルスの東まで押し上げて、タウルスの守備兵と志願兵、タウルス北の防衛線を守る帝国軍と合流する。総勢三万にふくれあがったセリウスの軍は、キニスリー、エクサン、ボイー族の連合に総攻撃をかけ、味方の被害ほとんどないまま、蛮族の戦士をことごとく討ち取り、八千あまりの捕虜を得、居留区を壊滅させる。

 セリウスは勝手に兵を挙げたことに関し元老院に呼び出しを受けたがこれを無視し、帝国領に侵入していた小部族を掃討しながら東に向かった。
 帝国の命令を無視したセリウスは国賊と言えるのだが、各地の都市は蛮族討伐のみを目的に軍を動かすセリウスを歓迎し協力を申し出る。
 セリウス軍は東の防衛線に駐留していた帝国兵を軍門に加え、東の主要都市ヌマンティアを拠点に志願兵も集めて、東の大部族ボイー族の居留地を壊滅させた。

 この快進撃にセリウスを処罰しようという元老院内の意見はなりをひそめ、今や帝国の守護神とまで呼ばれるようになったセリウスを帝国軍総指揮官──指揮官を束ね帝国軍を全て総括する地位に任命しようという気運が高まる。

 東を平定し次に西へ赴く途中、セリウスは元老院議会において帝国軍総指揮官に任じられた。

 そのことで自らの進退を危ぶんだ皇帝補佐アントニウス・アレリウスは、セリウスに刺客を送るがそれが発覚して失脚。皇帝妃リウィアも父親と同じ刑罰に処されることとなる。
 皇帝アウグスティヌスは後ろ盾を失い、恐れをなして自ら退位を望んだ。

 こうして新皇帝セリウス・マイウス・ユスティニアヌス帝が誕生する。

 ユスティニアヌス帝は自ら軍を率い、ノールス川以西の、かつて帝国領であった地域の奪還を開始する。
 帝国軍は土着した小部族を次々駆逐し、とうとう帝国領土全てを取り戻した。
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