副社長は今日も庇護欲全開です
偶然の出会いです
「へえ、陽菜(ひな)ちゃんっていうんだ? 大企業に勤めてるなんて、スゴイじゃん」

「いえ……。皆さんほどじゃないです」

距離が近いな……。

腕と腕が触れ合っているのを気持ち悪く感じるくらいに、今この状況がいたたまれない。

同期の真美香(まみか)から、珍しくダイニングバーに誘われて来たけれど、まさかコンパだったなんて……。

私たちが勤める大手メディア企業のオフィスビルから、徒歩十五分ほどの場所にあるお洒落なお店。

高級ホテルの一階奥にある、落ち着いた大人のバーだ。食事も美味しいと評判で、楽しみに来たのに。

「陽菜、ちょっと……」

コンパ相手と会話が弾まないでいると、隣のテーブル席にいた真美香が声をかけてきた。

私の腕を小さく突き、席を外せと遠回りに訴えている。

「ちょっと、失礼します」

隣に座っていた島本(しまもと)さんという人に断りを入れると、立ち上がり真美香についていく。

なんの用事か分からないけれど、席を外せたのはラッキーだったかもしれない。

正直、あそこまで近づかれていたことが不快だったから。

真美香は足早に店の奥にある化粧室へ入ると、即私を怖い目で見つめた。

「ねえ、陽菜。いったい、どういうつもり?」
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