副社長は今日も庇護欲全開です
副社長と急接近です
「行ってらっしゃい、陽菜。どんな話をしたのか教えてね」

二時前になり、副社長室に向かおうと立ち上がると、真美香に声をかけられた。

「分かった、でも期待しないでね」

苦笑するしかない私は、そう言い残して副社長室へ向かう。

私たちが勤務する本社は、海が眺められるタワービルに入っていた。

ここは、七十階建ての超高層ビルで、レストランやカフェ、それにショップもある賑やかなビル。

その中で、大手企業の本社も点在していて、私たちの会社は五十八階から六十階にあった。

私が所属する広報部は五十八階、副社長室は六十階にあるから、裏階段を使って上がる。

ドキドキと緊張する気持ちを鎮めるために、一度深呼吸をすると、副社長室のドアをノックした。

このフロアは、反対側の奥に社長室があり、他にも役員の部屋がある。

しんと静まり返った廊下は、靴音が響いてなんだか妙に緊張した。

茶色の木製の扉は、ノックしてから数秒後、静かに開いた。

「下村です。今日は、よろしくお願いいたします」

出迎えてくれたのは、秘書の住川さん。金曜日の夜に、副社長と一緒にいた人だ。

改めて見ると、背が高く凛とした雰囲気の人。住川さんと会話をするだけでも構えてしまいそうになるのに、副社長と二人で話すなんて、汗が流れそうになる。

「下村さん、多忙なところをありがとうございます。副社長のお部屋にご案内します」

「はい、よろしくお願いします」

声も落ち着いていて、大人な雰囲気だな……。たしか、副社長とは学生時代の同級生だと、噂で聞いたことがあるけど。

待ち合いに使われるのか、秘書室にはテーブルセットがある。そこを抜けるともう一つ扉があり、住川さんはそこをノックすると、私を招き入れてくれた。

「副社長、下村さんがおみえです」
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