記憶がどうであれ

11話

 彼と身体を重ねることが当たり前になってきた頃、彼にお願いされた言葉は私に馴染みのない言葉だった。
「ハメ撮り?」
 小さなビデオカメラを片手に載せている彼を不思議に思う。
「そう。シながらビデオを撮るんだ」
「えっ!?……そういう趣味?」
「実は……」
 衝撃だった…
 彼の離婚理由はコレだったのだろうか。
 そして、離婚後も恋人がいなかったのは、この秘密の所為?
「撮ったビデオはどうするの?」
「自分だけで楽しむよ」
 楽しむって何を?
 生身の私が側にいるのだからビデオなんて見なくてよいのでは?
「意味が…ちょっと…わからないです」
「君と付き合っていくうちに、どんどん自分の欲求を隠す事が辛くなってきた。
こういう趣味は理解されないだろうと思う…けど、思い切って伝えてみようと思ったんだ……やっぱりダメかな?」
 伺う様な表情をされても頷ける訳が無い。
「ダメです」
「じゃあ、メモリー抜くから雰囲気だけは?」
 そう言ってビデオカメラからSDカードを抜く彼。
「もう…仕方ないな…」
 今までの私だったら絶対に断っている内容だった。
 だけど受け入れてしまった。
 それは、彼のセックスの虜にされていたから。
 彼との行為はとても甘美で私を極楽へと連れて行ってくれる。
 雰囲気くらいなら…と受け入れてしまう程、彼との行為に私は溺れていた。

「ほらこっちはもうヌルヌルだ」

「その顔もそそる」
 満足そうな顔で私の顔のアップを狙っている彼。
 恥ずかしい。
 私は顔を腕で隠し声を殺しながら彼の行為を受けた。

「気持ち良かった? 俺も良かったよ」
 小さく頷くだけの私の肩を優しく引き顔を確認する彼。
 私の目の前にはビデオカメラ。
「ビデオあると凄い言葉が多いね」
 私が言うと、彼は、
「状況説明も必要だろ?」
 と笑って「燃えた?」と私に同意を求めながビデオカメラをパタンと閉じた。
「…無いかな。 やっぱり」
 燃えないし萌えない。
 ビデオが気になってしょうがなかった。
 だけど、彼が楽しそうだったので「今後は絶対にしない!」と言う程でもない。
 雰囲気だけならまた付き合ってもいいかな。
 こういった行為に興奮する人の気持ちはよく分からないけど、それでもこれで彼が今まで以上に楽しんでくれたのなら良かったと思った。
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