溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
数日前はあれほど病院に行くのを躊躇っていたのに、今では毎日急いで仕事を終わりにして、ほぼ定時で上がって病院へ向かっている。

だからってわけではないけれど……。

「環奈先輩、お忘れだったんじゃないですか?」

疑いめいた目で見られ、内心ギクリとなるものの平静を装う。

「そ、そんなことないよ?」

「本当ですかぁ?」

「もちろん」

とは言うものの、正直すっかり忘れていた。環奈ちゃんたちにイケメンドクターがいないか探しておくと言ったことを。

「それならいいですけど……本気で忘れていたら怒っていましたからね? おばあさんのお見舞いにも行きたかったのに、なぜか毎回笠井君に止められて、ずっと我慢していたんですから」

「ごめんね」

そうなんだよね、毎日定時で上がるたびに薫ちゃんも『一緒に行きます』って言ってくれていたんだけど、その度になぜか笠井君がアレコレ理由をつけて、薫ちゃんを止めてくれていた。

薫ちゃんが病院に来たら、佐々木君と会うことになるかもしれない……と思うとモヤモヤしていた私にとっては、笠井君の謎の行動に感謝している。
< 108 / 279 >

この作品をシェア

pagetop