そして恋になる日
花火を見に行きませんか?

1ー壮吾

8月初旬。
朝から太陽が燦々と降り注ぎ、蝉の鳴き声が賑やかな中を、ワクワクしながら会社に向かう。
今日も俺は彼女よりほんの少しだけ遅く出勤する。

俺、高樹壮吾、22歳。
大手機械メーカーの会社に入社して5ヶ月目。
バリバリの新社会人だ。

本社で新人研修を経た後、地方の事業所の業務部に配属されて3ヶ月。
日々新しい事を覚えるのは楽しいし、上司や同僚との人間関係も上手くいってるし、仕事にはやりがいを感じている。

それから、なんと言っても一番の楽しみは、彼女に会えること。

安藤寧々さん、26歳。
短大卒業後ここに入社して7年目の、ベテランOLだ。

業務部のフロアに入って行くとー。
いたいた。
安藤さん、またブラインドと格闘してる。
紐を引いているけど、ブラインドは斜めになってるし。
このフロアでは毎朝朝礼前に全員で簡単な掃除をするので、まずは窓を開けるのだ。

「おはようございます、安藤さん」
俺は声をかけながら、彼女の後ろに立つ。
彼女の頭に俺の胸が触れるか触れないかのところに。
彼女の肩に俺の肘が触れるか触れないかのところに。
そして、紐を持つ彼女の手に触れるか触れないかのところにそっと手を添えて。
彼女の髪の匂いを胸いっぱい嗅ぎながら。
…変態か、俺は。

紐を引っ張ると、スルスルとブラインドが上がって行く。
「おはよー、高樹君!やっぱり上手だね!」
安藤さんが振り返ってフニャッと笑う。
近い、近い。
顔がぶつかっちゃいそうですよ、安藤さん。
いっそ、事故の振りしてキスでもしちゃおうかな。
なんてね。
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