実家からの帰りに電車を乗り換えるため駅の構内を歩いていると、後ろから誰かに肩を叩かれ、驚いて振り返った。

「伊藤くんか……びっくりした……」

伊藤くんはスーツ姿で仕事用の鞄を持ち、肩から小振りなボストンバッグを提げている。

ただの休日出勤にしては荷物が多すぎるから、一泊程度の出張の帰りだろうか。

「よう佐野、デート帰りか?」

伊藤くんはニヤニヤ笑いながら尋ねた。

これは明らかに冷やかしだ。

本当はそう思っていないのが手に取るようにわかる。

「違いますー」

「わかってるよ。普通に考えて、デートなら土曜の夜のこんな早い時間に一人で帰すわけないじゃん」

わかってるならそんな野暮なこと聞かないでほしい。

土曜の夜にデートに誘ってくれる相手もいない寂しさが余計に身に染みる。

「デートする相手もいなくて悪かったわね」

「悪くはないけど、晩飯まだなら一緒にどう?」

「もう食べた」

「じゃあおごるから一杯付き合ってよ」

相変わらず軽いノリだ。

いや、コミュニケーション能力が高いと言うべきか。