2章 突然の任命


あの男性が店に姿を見せなくなってから1週間ほどが経った日の朝。

秘書室に入ると、先輩秘書達が忙しくしていた。

もちろんマリカ先輩も、束ねた髪の後れ毛が揺れるほど慌ただしく役員室と秘書室を往来している。

ようやくデスクに戻って一息ついたマリカ先輩に声をかけた。

「今日は朝からバタバタですね。何かあるんですか?」

マリカ先輩は後れ毛を直しながら私の方に体を向けた。

「そうそう、昨日アコは早く帰っちゃったから伝えられなかったんだけどさ」

私はマリカ先輩の額の汗を見ながら、紅茶を差し出した。

「あ、ありがと。ほら、先週だったっけ、急遽社長付の海外事業新規開発本部が新設されることになったじゃない?」

「ああ、そういえばそんな回覧回ってましたね」

マリカ先輩は紅茶を持ったまま私の耳元に顔を寄せて言った。

「その部署に所属するのはまだ本部長しか決まってないんだけど、噂では、その本部長が宇都宮財閥随一の頭脳と美貌を兼ね揃えた次期社長候補なんだって」

「へー、それって誰なんですか?」

「宇都宮商事の会長の孫に当たる、ま、手っ取り早く言うと現社長の弟ね。宇都宮 湊っていうんだけど」

「宇都宮 湊・・・?」

名前だけ聞いても全く知らないしピンともこなかった。

マリカ先輩は尚も興奮気味に続けた。

「これまではニューヨーク支店の海外食品事業開発部でバリバリの営業してて、社内でもトップの成績を誇ってたらしいわ。宇都宮一族とは関係なしに、誰も一目おかざるを得ない生粋のエリートだって。今33歳でしかも独身!その宇都宮湊が本部長の海外事業新規開発本部が今日付けでこの役員室の一室に置かれるらしいの。それで朝からバタバタやってるわけ」

そうだったのね。そりゃ朝から忙しいわけだ。

「で、ここからがドキドキなんだけど」

「ドキドキって?」

あまり興味ないながらも、身を乗り出したマリカ先輩に顔を近づけた。

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