クールな次期社長と愛されオフィス
「これでも紅茶に関しては世界中で幅広く扱ってきた。味や風味の善し悪しは一般人よりもわかると自負している。そこで一つ提案なんだが」

何を言い出すんだろう。

ドキドキしながら部長の言葉の続きを待った。

「この本部室で、毎回異なる自作のブレンドティを淹れてくれないか。堂島の夢のために俺がアドバイスしてやろう。但し、あくまでオリジナルに限る。誰かの真似じゃなく、堂島独自で考えたブレンドティだ」

相変わらず上から目線なところには納得いかなかったけれど、確かにこれだけ実績を積んでる部長のアドバイスは絶対に自分の為になることは間違いない。

「はい、がんばります」

部長の目を見てしっかりと頷いた。

ただ、オリジナルとなると時間が必要だ。

秘書の仕事をしながらだとややきついなと思っていた時、部長が続けた。

「あと、俺もある程度自分のことは自分でできるから、堂島は秘書の仕事は後回しで構わない。まずはブレンドティ開発を優先してくれ」

ブレンドティ開発って、まるで仕事みたい。

「いいんですか?」

「全く問題ない。これは俺が君に課した業務命令みたいなもんだ」

「じゃ、ブレンドティ開発は私の仕事になるんですか?」

「そうだ。しばらく堂島の裁量を見させてもらい、必要と感じたら俺の構想に組み込んでやる」

構想って何?

新規事業に関係することだろうか。

部長はスッとソファーから立ち上がり、ワイシャツの袖をまくりながら自分のデスクに戻っていった。

デスクの椅子に座ると、こちらを向いて言った。

「今日はもう戻っていいぞ。明日からここの秘書としてよろしく頼む」

「は、はい」

私はパソコンを打ち始めた部長に一礼すると、部屋を後にした。

扉を閉めた途端、一気に現実に引き戻される。

まさか、こんな展開になろうとはこの部屋に入るまでは思いもしなかった。

今は嘘みたいに目の前にあった霧は晴れ、自分の夢に向かって一直線の光が差しているようだった。

私の夢を理解してくれ、更に後押しまでしてもらえるなんて。

ドキドキ震える胸を押さえて、自分のデスクにゆっくりと戻っていった。

こうして私は秘書達から羨望の眼差しを浴びながら、宇都宮本部長付秘書を担当することになったのだった。









< 17 / 120 >

この作品をシェア

pagetop