クールな次期社長と愛されオフィス
4章 社長と部長
4章 社長と部長


カウンターの奧で珈琲を入れていたら、ミズキがそばにやってきて私の耳元でささやいた。

「部長さん、来ましたよ」

扉の方を見ると、スーツをビシッと着こなした宇都宮部長がいつものカウンター席の方へゆっくりと歩いてきていた。

カウンター越しに部長に声をかける。

「お疲れさまです」

「ああ、お疲れ」

「明日の社長との経営戦略会議の時間は調整できましたから、予定通り朝一の時間でお願いします」

そう言いながら水の入ったグラスを部長の前に置いた。

「俺がこの店に来た時は、部長ではなく一人の客として接してくれと何度も言ってるだろう。仕事の話はいい。明日の朝聞くから」

「あ、はい。すみません」

私は頭を下げると、またカウンターに戻った。

部長は時間がある時はいつも私の淹れるブレンドティを飲みに店にやってくる。

店の中では客として接してほしいと言われてるんだけど、どうしても部長にしか見れなくていつも注意されるんだよね。

「今日はどんなブレンドティだ?」

部長は両手を組みカウンターに立つ私を見た。

「先日買って頂いた谷本紅茶と日本製ゆずの葉をブレンドしてみました。オレンジよりもあっさり頂けると思います」

「ん、じゃそれをもらおう」

日本製の紅茶は、外国製よりも蒸らす時間を増やした方が味わい深くなる。

時間を計りながら、十分に蒸らしたものを部長に出した。

一口飲むと、部長は満足気に頷いた。

「このブレンドティは他のお客様からも好評で、ブレンドした紅茶葉を売ってほしいという方も何人かいらっしゃいました」

「そうか、それはよかったじゃないか。店でブレンド紅茶を売ってもいいんじゃない?人気が一目瞭然だし改良のヒントになる」

そんなこと私が勝手に決められるはずもなく、奧でサンドイッチを作っている店長の顔をちらっと覗く。

店長も部長とは谷本紅茶との取引が成立して以来親しくなっていた。

「いつもご贔屓にして頂きありがとうございます。ブレンド紅茶の販売もまたアコちゃんと相談してみますね。うちはもともと珈琲が売りだったのに、最近じゃ紅茶を飲みに来るお客様も増えてありがたい限りです。私も評判になるような珈琲を入れないといけませんな」

店長はそう言うと楽しげに笑った。

部長も口元を緩めながらティカップに口をつけた。





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