クールな次期社長と愛されオフィス
ミズキの泣きそうな目を見ていたら思わず自分の弱音を吐いてしまいそうになる。

将来、一緒に二人でカフェを持つ夢を語り合っていたミズキには、この現状を知らせておいた方がいいような気もしたから。

今日社長室で起こったことをミズキに話すと、ミズキは目に一杯涙をためて「ひどい!」と叫んだ。

「そんなの脅しじゃないですか?」

「うん、多分そうだと思う」

「こんな大変なこと、湊さんには相談したんですか?」

「してないよ」

「絶対相談した方がいいですよ!頭の切れる湊さんならきっとその脅しを覆すいい方法を考えてくれるはずです!」

私は微笑んだまま首を横に振った。

「湊に相談なんかしたら、どういう風に言うか目に見えてるもん。それだけはできないんだ」

「どうしてですか?」

ミズキは私の目をしっかりと見つめた。

私はミズキを黙ったまま見つめ返しながら、もし、私が相談したら、湊は自分を犠牲にしてでもも私を守ってくれるに違いないって思っていた。

湊の壮大な夢の一歩でもある新規事業。

それだけは、絶対湊のもので、湊が成し遂げないといけないものだから。

私の夢はそんな湊の夢に比べたらちっぽけなものだし、例え叶わなくてもだれも悲しまないし誰も損もしない。

だから、私の夢をあきらめたとしても、湊の夢を守りたい。

社長が私に与えた1週間は、きっと湊と過ごす最後の1週間になる。

短い間でも、湊のそばにいて愛して愛されて、そしてたくさんの夢を湊と一緒に見せてもらった。

それだけで十分幸せなんだ。

一生分の幸せだったと思う。

「そろそろ帰るね。今日は湊、出張でここには寄らないから」

私は涙を堪えて立ち上がった。

「アコさん」

ミズキの力のない声が聞こえる。

私はアコに手を振ると、店の裏口から出て行った。

湊は今日は遅くなるって言ってたっけ。

今、どんな顔して会えばいいのかわからない私には、今日の出張はとてもありがたいような気がした。



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