10章 あきらめない


その翌日、小樽の『MY CAFE』の店主の友江さんから店に連絡が入った。

『実は昨日から東京に来ているの。よかったら明日の晩御飯、一緒にどうかしら?』

「是非お願いします!明日は丁度店の仕事もお休み頂いてるし」

どんよりとした気分が友江さんの声を聞いて少し晴れたような気がした。

友江さんは普段カフェメニューばかり食べているから、下町の居酒屋に行きたいと言う。

『MY CAFE』店長には似つかわしくないなぁと思いながら、私のよく知る居酒屋に予約を入れた。

その夜遅くに帰ってきた湊と3日ぶりにゆっくりと顔を合わす。

ソファーで座ってテレビを観ていた私の横に湊はゆっくりと腰をかけた。

そして私の肩に手を回す。

随分と慣れてきた湊の大きな腕の重み。この重みもあと少しで感じることができなくなる。

私を見つめる湊の目から視線を落とした。

「少し会わないうちに、アコが小さくなったように思うが、疲れてるのか?」

視線を落とした私に湊は優しく言った。

「いえ、大丈夫です。そんな小さくなるほど食欲減ってませんから」

「そうか?」

湊はそう言うと、いつものように笑った。

笑いながら私の体を引き寄せる。

「仕事がきついなら無理するな。俺の方はなんとでもなるから」

そして私の首筋に唇を這わせた。

痺れるような甘い感覚が私を捉える。

このまま湊に抱かれたい。何もかも忘れるくらいに。

私は、自分から湊にぎゅっと抱きついた。

湊の唇が首筋から離れ、私の耳元で静かにささやく。

「どうした?何かあったか?」

「何もないです」

「アコから俺に抱きつくなんて今までなかったからな」

私は更にぎゅっと抱きしめる。

「私が抱きついちゃいけませんか?」

湊の胸に顔を埋めながら、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら言った。

「いや、大いに結構だけれど。アコらしくないな、と思って」

「・・・抱いて下さい」

これ以上、色々と詮索されたら、私はきっと湊の前で泣いてしまう。

私らしくなくてもいい。

湊にしっかり抱きしめて愛されたい。

あと少しの日々。私にその愛を刻みつけてほしい。

湊は私の体を自分の体からゆっくりと離すと、そのまま優しく私の唇を塞いだ。

とてもやわらかくて酔いしれるようなキスの後、湊の繊細な唇と手が私の虚ろな気持ちを忘れさせていく。

湊が甘くささやく私の名前を心に刻みつけながら、湊のいつもより激しい高ぶりにに必死についていった。

全てが終わり、湊はゆっくりと私の髪を撫でながら頬にキスをした。

「俺に話してみろ。アコが苦しんでるのは見たくない」




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