クールな次期社長と愛されオフィス
「何も苦しんでなんかいません」

そう言いながら、心地よく疲れ切った体を湊に向け、その胸にそっと唇をつける。

こんなことしたのも初めてだった。

「いつものアコには見えない。俺には隠し事は一切禁止だぞ」

「わかってます。だけど、本当に大丈夫なんです。ちょっと仕事がハードで疲れてるだけ」

「ん?」

湊は私の髪を優しく撫でながらも、まだ納得いかない表情で私を見つめている。

これ以上優しい言葉をかけられたら、どうにかなりそうだったから。

湊の視線を振り切って、彼の腰に腕を巻き付けて話題を変えた。

「今日、小樽の『MY CAFE』で出会った友江さんから連絡があってね、明日の夜一緒に食事をとることになりました」

「ん?友江さんってあのカフェの店長か」

「はい。色々と話が聞けそうだし、楽しみです」

「そうか、それはよかったな。明日は日曜だし久しぶりにアコと夜、外食しようと思っていたがお預けか」

私はくすくす笑いながら、少しすねた表情の湊を見上げた。

「まぁ、俺達の場合はいつだって外食できる。明日は友江さんと楽しんできたらいい」

そう言って私の前髪を掻き上げた。

いつだって外食できる・・・・・・か。

社長が呈したタイムリミットは着々と近づいている。

こんな風に湊と過ごせる時間はあとどれくらいあるんだろう。

いつもなら夜は自分の部屋で寝るんだけど、今夜は同じベッドで湊と寝たかった。

「ここで寝てもいい?」

湊は少し驚いた顔で私を見たけれど、すぐに穏やかに微笑んで頷いた。

温かい湊の胸を枕にして、目をつむる。

湊の寝息を聞きながら、その夜は全然眠れなかったけれど。


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