理系教授の秘密は甘々のはじまり
はじまり
それは何気ない日常における些細な出来事だった。
普段なら誰も気に止めない程度の,,,。


鈴木波実23歳。
H大学薬理学部、薬理学研究科の大学院2年生だ。日頃、波実は医療系薬理学、特に、臨床薬物動態について研究している。

いつも難しい研究ばかりしているからか、波実の休日は甘ったるいもので溢れていた。

休みになると非日常を求めてフラフラと出かける。
お気に入りの作家の小説と漫画を買って、甘いSweetSとスムージーで心を癒す,,,。

波実はオタクではない。
普通に漫画や小説・オトメゲームを愛している。
それは癒しであり心の糧。そこにリアルな男の影はいらない。

日曜日のその日も、いつのまにか常連になってしまった古本屋"コミックメイツ"に立ち寄った。

波実は通い慣れた店内をズンズンと目的地に向かって進んでいく。

インターネットで見た目的のコミックの表紙が目に入り、波実は喜び勇んで手を伸ばした。

「あっ,,,」

少女漫画の棚とは直角に並べられているゲームコーナーから飛び出してきた男性が、波実と同じようにコミックに手を伸ばそうと小走りでやって来た。

二人は勢い余ってぶつかってしまう。
男性が両手に抱えていた数冊の本が床に散らばった。

「す、すみません」
床に落ちたコミックや本を拾おうと男性が屈みこんだ。波実もそれに続いて本を集める。

「あ、これ,,,」

波実が言葉を発すると、男性はビクッと体をすくめた。

それは少女漫画の王道ラブコメディ。昔一世を風靡した少女漫画家の作品で、最近また注目を浴びてきており2度目の映画化をされるシリーズだった。

波実の母親がこの漫画家が好きで、実家には全巻揃っている。

男性は少女漫画を購入しようとしたのがばれて恥ずかしいのか真っ赤な顔をして立ち上がった。

180cm位ある筋肉質で引き締まった体つき。
サラサラだけどボサボサの黒髪に黒ぶち眼鏡で目が隠れているから顔つきはよく分からない。
白いシャツにジーンズといった身なりは20代といったところか。しかし、少女漫画を読むようにはとても見えなかった。

「こ、これは妹の,,,」

「これ、面白いですよね!今映画化されるって話題になってて男性も読んでる人多いんですよ」

「えっ,,,?」

「私も彼氏がいたら読んでもらいたいくらい面白いです」

男性は顔をあげ、驚いたように波実を見つめた。と、いっても、相変わらず目は前髪と眼鏡で隠れていたが。

「す、鈴木さん,,,?」

「あ、そうです。この作家さん鈴木めいかさんですよね。私の名字と一緒なんですよ」

波実は嬉しそうに言った。

男性は他にもいろいろなジャンルの漫画や小説を購入しようとしているようだ。波実は自分が拾った分の本を男性に渡すと、

「私達、趣味が合うかもしれませんね。あなたの持っている本、私もほとんど読んでます」

それは、本当にただ何となく発した言葉だったのに,,,。

それがこの彼の、溺愛(ストーカー?)スイッチを押すことになるなんて、波実は思いもしなかったのである。



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