理系教授の秘密は甘々のはじまり

突然の代打

「おはようございます」

次の月曜日。波実はいつも通りのバスに乗りH大前のバス停で降りて、臨床薬物動態研究室の扉を開けた。

この研究室には教授と助教授、准教授が各1名。
そして、院生は1、2年生に各2名が在籍している。

この研究室の教授は葉山真澄28歳。H大学長の孫で、若くして将来を約束されている精鋭だ。

葉山は、すでに自席に着席しており、パソコンに何かを打ち込んでいた。きっと今週末の学会のプレゼンテーション資料だろう。

無地のVネックTシャツに黒のスラックス、その上にロングの白衣を着用している。サラサラの黒髪を左右に分けたその顔はイケメンと称されるが、常に無表情だ。

「おはよう」

葉山はチラッと波実を見たが、すぐにパソコンに目を戻した。

「おはよう、波実ちゃん」

明るく挨拶を返してくれるのは、助教授の仲代憬子35歳。バツイチで5歳の息子がいる。

ポッチャリしていて背もそんなに高くはないが、研究においてはとても優秀で学会発表の凛々しい姿は見惚れてしまうほどだ。

他のメンバーは見当たらない。

同期の早島雅弘24歳は、取り組んでいる研究課題がまとまらず、週末は研究室の仮眠室に泊まり込んでいたらしく、まだ寝ていると憬子は教えてくれた。

波実は自分の席に着くと、パソコンを立ち上げ、バッグから、現在まとめている途中の論文資料を取り出した。

「鈴木、ちょっと来い」

葉山教授から呼ばれて波実は顔をあげる。

低くて通る声は"声優のまもたんに似てるな"なんて邪念が頭をかすめる。

波実は「はーい」と返事をして。教授の席に近づいた。
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