時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
偏屈な占術師


翌日、アメリは騎士のカールに頼んで小さな辻馬車でリエーヌの郊外を目指した。


目的は、もちろん占星術師の当主ロナルド・ケプラーに会うためである。


「ハア……。たとえアメリ様の頼みといえども、今回ばかりは気が進まないな。国王陛下にバレたら、どんな目に遭わされるか……」


御者席で馬を操りながら、短い赤髪を両手で抱え込みカールがため息を吐いている。


アメリの忠実な騎士だったヴァンがロイセン城を離れた今、カールはアメリが最も信頼をおける騎士だった。もう一人ブランという名の黒髪の優男も親切で親しみ易いが、何分口が軽いのでこういった秘密ごとは任せられない。


「ごめんなさい。どうしても、カイル様には秘密にしておきたくて。頼りに出来るのは、あなただけだったの」


申し訳なさそうなアメリを見て、カールは幾分か表情を和らげる。


「まあ、仕方ないです。アメリ様にそこまで言われて、断ることの出来る男なんていないでしょう」


ロイセン王国に代々仕える忠実な騎士の家系とあって、カールは実直な性格をしていた。その上仲間思いで、男女問わず優しい。


「ありがとう、カール」


「どういたしまして。ところで、ケプラーの邸になんの用なのですか?」





カールの素朴な疑問に、アメリは言葉を詰まらせた。


「少し、占星術のことで相談があるの」


「ふうん。そうなのですね」


若いカールは、アメリの見え見えの誤魔化しにもさして疑問を抱いていないようだった。疑問が解消されたのか、それきり言葉を返すことはなく黙々と手綱を操り始める。


ロイセン王国に伝わる予言の書の存在は、国の重鎮であるごく一部の人間しか知らない。


ましてやアメリがケプラーに頼んでその予言の書を改ざんしてもらおうと企んでいることなど、口が裂けても言えない。


アメリは窓の外に目を向けた。リエーヌの煉瓦道が終わり、いよいよ郊外に差し掛かっている。みずみずしい緑葉に覆われた森の中を、馬車はカラカラと軽快な音を鳴らしながら駆けていた。


(改ざんなんてことをしたら、罰当たりなのは分かっているけど……)


アメリは、そっと目を閉じる。瞼の裏に浮かんだのは、いつぞやの夢の中に現れた、闇間に倒れる金色の髪をした少年の姿だった。


カイルへの想いが募れば募るほど、おそらくカイルと同じ苦しみの中で悶え苦しんでいる彼を救いたいという想いが、溢れ出す。


けれども、救えるのはアメリしかいないのだ。それから、特殊文字を書くことの出来る占星術師、ロナルド・ケプラーだ。
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