冷徹王子と成り代わり花嫁契約
一章 偽りの婚約者

木製の何かを数度、ノックする音で目が覚めた。

いつもの、窓ガラスを棒で軽く突く音とは違う、少しだけ低い音に違和感を覚えながらも、頭から被っていた布団を剥がす。

いつも就寝時に使っている、申し訳程度の薄い掛け布団と、木製の床の感覚が直に伝わってくる、頼りない敷布団――ではなく、私の身体を反発して支える、上質なベッド。

その上で、私はぼんやりと白い天井を見上げていた。


「ロゼッタ様、起床のお時間でございます」


普段は耳にすることのない嗄れた女性の声が、昨夜の出来事が夢ではない事を示唆していた。
霧がかかったようにぼんやりしていた頭は、その言葉に一気に覚醒へと導かれる。

反射的に勢い良く上半身を起こすと、身体に掛かっていた羽毛の布団と、上衣とスカートが一体となった寝間着の膝元が捲れ上がった。

確かめるように自分の髪の毛に触れると、腰まであった髪の毛は肩口までの長さになっていた。

胸元に視線をやれば、妹が大事にしていたロケットペンダントが私の首からぶら下がり、時折朝日を反射して主張している。

間違いなく、その全てが、昨夜あの男に喧嘩を売ったあと、妹の振りをすることを了承した証だった。

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