――焦った……。修復不可能なレベルで怒らせたかと思った。

 まひるの手を取って、自宅を出る。
 
 キスくらい、さらっとできると思ってたのが間違いなんだろうけど、あんなにはっきり拒否されるとは思っていなかった。

 どうやら、彼女は今まで言い寄ってきた女たちと同じ扱いでは、落ちてくれないようだ。
 甘えさせて、優しくして、時には贅沢もさせて、俺が機嫌よく微笑んでいれば絆されるタイプじゃない。
 それにいくら俺が本気で愛そうとしたって、彼女は身持ちがかたそうだから、簡単に許してくれることもないだろう。


「なにが食べたいですか?」

 左側を歩く彼女が、俺を見上げて言う。

「お前」
「えっ!?」

 もういい人でいるのはやめた。
 このまま猫をかぶっていても関係は進展しないし、どうせ一緒に生活していれば俺の本性なんてすぐにバレるだろうし……。


「わっ、私は食べ物じゃないです!」
「そう? すごく美味しそうだけどな」

 動揺している彼女を流し見たら、俺の手から離れ、ちょうどやってきたエレベーターにそそくさと乗り込んでしまった。

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