気がつけば・・・愛

ーー漏れちゃうーー

あれほど先生にトイレに行くようにと
言われていたのに
給食を食べるのが遅くて行けなかった...

ーー漏れちゃうーー

ここで手を繋ぐあゆみちゃんに
トイレと告げれば済むだけなのに

恥ずかしさも相俟って
我慢に我慢を重ねた

......結果

「あっ」

足元に流れ落ちるしぶきは
我慢し過ぎたせいで止められない

繋いだ手を振りほどき
しゃがみこんだ

突然の事態に
あゆみちゃんは...
「ちょっと待ってて」
小さな声で囁くと一人列から離れ

後方の体育用具倉庫に並ぶ
バケツをそっと取りに行くと

バシャーーン

しゃがみこんだ小さな背中に
バケツの水を浴びせた

「ウヮァァァン」

突然の事に驚いて
泣き出したずぶ濡れのお漏らし君に

「あ、ごめーん、暑いから
グランドに掛けようと思ったのに〜
先生〜、先生〜」

いくら最後尾に並んでいたとはいえ
この非常事態に周りの父兄やら友達やらが騒ぎ始めた

それを聞きつけた担任が
泣き止まない子とあゆみちゃんを連れ出した

保健室までしゃくり上げながら歩く
頭の上で
「野村さんさすがね」
担任の先生があゆみちゃんを褒めていた声だけは
やけに鮮明に覚えていた

この一件で一躍有名になり
友達が増えたことは言うまでもなく

機転を利かせた6年生のお姉さんは
ドジと笑われても真実は明かさなかったのに

素直になれない自分は

廊下ですれ違っても
運動会で誘導されても

知らぬ振りを決めこみ
あゆみちゃんが卒業するまで
ひと言も話すことは無かった




本当は・・・
全力で守ってくれた優しいあゆみちゃんのことに
小さな胸を焦がしていた

「好き」
その一言が言えなくて

中学、高校・・・時折見かける
あゆみちゃんの制服姿を
影で見つめるしか出来なかった子供




ーー懐かしいーー



あの頃の気持ちに触れながら
草履を履くと
ゆっくり背後に近づいて

声を掛けずにいられなかった
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