♩〜
インターフォンの音に肩がビクッと震えた

「はい、今開けます」

スリッパの音を立てながら扉を開くと

「おはよう」

笑顔の寛子が立っていた

その後ろに背の高い男性が一人

「あ、この人荷物運び手伝ってくれる
私のパートナーの石黒辰馬」

アッサリと紹介されたけれど
パートナーって・・・

そう頭を巡らせるより先に

「荷物本当にこれだけなのね」

プラスチック製の衣装ケース2個と
一番大きなトランク一つ

玄関脇に置かれた荷物を見て
クククと笑った寛子は
石黒さんに“お願いね”の一言で
自分はリビングへと入った

「シンプルね」

寛子は極力飾りも置かない家具のみのリビングを見渡してソファに座った

「この家中全部捨てられても
平気な程に片付けた?」

「え?」

「だから、想いを残してないかってこと」

「あ〜、それは大丈夫」

「旦那さんの驚く顔を想像して
ワクワクしてきた」

自分のことのように話す寛子を
至極冷静に見ている私がいて

この家に自分が居なくなるという
実感が湧かない

けれど・・・
カトラリーのひとつにまで
想いを残さないと心に決めて
隅々まで掃除を済ませた今

もう二度と帰って来ない部屋を
ゆっくりと眺めた