気がつけば・・・愛
「とりあえず鍵は持っておきな」

そう言われてポストに入れるのをやめた鍵を
ハンドバッグに入れると
石黒さんの運転する車に乗り込んだ


「先ずは携帯ね」


寛子の先導で携帯ショップに立ち寄ると
迷わず解約手続きを済ませた

「じゃあこれ渡しておくね」

離婚後に新しい携帯を契約するまでの繋ぎとして
通話機能と簡単なメールのみの
可愛らしい携帯を渡された


「後でリセットするから
心配せずに使って良いわよ」

寛子はそう言ってくれた


良憲さんに連絡するのは離婚後と決めているから
使うつもりも無かったけれど
携帯があると便利には違いない

「ありがとう」

「それより、私は午後から
あゆみの旦那に三下り半突きつけてくるわ」

仕立ての良いイタリア製のスーツを着こなした寛子は
分厚い封書を開いて見せた

「いよいよか」

今朝、いつものように
“行ってきます”と仕事に出た夫
まさか離婚の申し立てを受けるとは
夢にも思っていないだろう

藤村薫とのことが形になる時は
私は捨てられる運命だったのだから
1ミリの情けも無用と寛子は笑った


「さぁここがあゆみの再出発の家」


着いたのは寛子の法律事務所から然程離れていない場所にあるビル
台車に乗せられた荷物と一緒に
エレベーターに乗り込んだ

「隣がうちだから‥遠慮なく来てね」

最上階で降りると三軒分のドアがあり
非常階段に一番近い部屋に荷物が運び込まれた


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