気がつけば・・・愛
涙の理由
「あ、あの...はいっ、すみません、
勝手に撮らせて貰って」


慌て過ぎて言葉に詰まる


「良いんですよ...
ここの花は綺麗に咲いているから
撮ってあげると喜びます」


穏やかな笑顔を見ていると
こちらも笑顔になる


「どうぞ遠慮なさらずに続けて下さい」


「では、お言葉に甘えて」


気配を背中越しに感じながら
咲き誇る芍薬にピントを合わせ続ける

時折目が合うと
ニコリと微笑む姿はとても絵になる


ーー撮っちゃダメよねーー


住職を被写体にしよう思ってしまった
邪念を振り払うように頭を振る



声が漏れているのか
邪念が顔に書いてあるのか

クスッと微かに聞こえた笑い声に
恥ずかしさも相まって頬が火照った



しばらくはシャッターを押す様子を
つかず離れず見ていた住職に



「少し休憩しませんか? ...さあ、どうぞ」



誘われて促されるまま背中について行く


「こちらでお待ち下さい」


本尊が鎮座する本堂の縁側に座ると
お盆に乗せられたお茶が運ばれてきた


「いただきます」

目の前に垣を作るツツジを眺める
湯呑みに口を付けると懐かしい味がした


ーーお婆ちゃん家のお茶だーー


番茶を飲みながら
隣に座る住職が話す寺の歴史に耳を傾けた

檀家さんの強い意向で
迎えられた住職は35歳

ーー若いーー

どこか愛嬌のある顔は懐かしい気持ちにさせる

クルンとした丸い目は笑うとなくなる

姿勢の良い姿の中に優しさが感じられるのは
この人の纏う空気だろうか

目を合わせるたびに
緩む頬を感じて

久しぶりの笑顔を思い
満足感が広がった

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