気がつけば・・・愛

デート


・・・・・・
・・・




心《しん》を幼稚園に送り届けてから
愛車を走らせると久しぶりの街へと出た


駐車場に車を止めると目的の場所へと急ぐ


腕時計を確認しながら
少しずつ早歩きになるのは
久しぶりのデートの所為


・・・ヒールのない靴にして良かった


足下を気にしながら
スクランブル交差点に足止めされると
目の前に見えた大きな図書館へ視線を向けた


「・・・見つけた」


中庭のベンチに座るのは愛しい人

シルエットだけで気付くなんて
どれだけ好きなんだろう

少し上がる口角を
隠すこともせず

残り僅かな信号のカウントダウンに視線を戻した


* * *


ちょうど一時間前に


「今日のデートは待ち合わせしよう」


良憲さんの提案で別々に出発することになった

バスで一足先に出掛けた良憲さんと
お泊りに興奮している心を乗せて車で出掛けた私

普段は着ないワンピースを着て
オシャレに見えるように髪も巻いてきた

久しぶりのワクワクは心より私の方が勝ってるかもしれない


浮き足立つ気分を今日は抑えることもしないと決めた



* * *



「お待たせ」


背中を向けた良憲さんに声を掛けると
クルリとこちらを向いて


「綺麗だよ」と柔らかく微笑んだ


「早かったね」


「うん」


息を整えるために隣に座ると


「走って来たの?」


背中をトントンと撫でられる


「ううん。早く会いたかったから
  早歩きしちゃった」


ペロッと舌を出してみると


「あゆみ」


少し困った顔をした良憲さんは


「嬉しいよ」


そう言って腕を引くとギュッと抱き寄せた


「・・・・・・っ」


公衆の面前ですけど・・・っ
カーッと熱の集まる頬


「我慢しようとしたのに
 可愛いこと言うから・・・
 今日は我慢しない」


頭の上から降ったのは
良憲さんの優しくて甘い声だった

いつもとはちがって
ラフな格好に帽子を被った良憲さんは
ものすごくカッコいい

何気ない一つ一つが私の胸を掻き乱す


「今日はずっとここで
  あゆみを抱きしめるだけでもいい」


キュン死にしそうな言葉を
忘れないように頭に閉じ込めると

ウッカリ頷きそうな自分を頭の中で吹き飛ばした


デートを提案したのは私なのに
その予定を図書館の中庭で終わらせようとする良憲さん


「えー」


もちろん不満は声に出てしまって
その声で漸く良憲さんの腕が緩んだ


「今日はデートね」


髪を手櫛で直しながら
良憲さんを見上げると

頬を赤く染めたままで
うんうんと頷いてくれた


「あゆみの行きたいところへ」


いつもそう言って私を優先してくれるから


「今日は良憲さんの行きたいところ」


可愛い奥さんにだってなれる!
そう思っていたのに


「僕の行きたいところ・・・」


顎に手を当てて少し考える仕草の後


「ホテルにしようか」


耳元でそう囁いた


「ヒャ」


背中に電気が走ったような感覚がして
変な声が出てしまった

慌てて誤魔化すように


「真面目に考えて」


怒ったフリをしてみたのに


「煽ったのは、あゆみ」


大きな瞳をスーッと細めて笑った


「私?」


“煽る”の原因を考えてみるけれど
全く心当たりもなくて

頭を少し傾ける私に


「お楽しみは夜に取っておいて
  やっぱりデートしよう」


そう言って立ち上がった良憲さんは
サァと繋いだ手を引いた




愛しいあなたと手繋ぎデート



何年経っても


この瞬間も


やっぱりあなたに恋してる
























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