気がつけば・・・愛

甘い誘惑




「「・・・」」



朝ごはんの最後に
良憲さんと心の前に小さなガラス皿を置くと


同じ坊主頭に濃紺の作務衣を着た二人が

同じポーズで固まった


・・・かわいい


目の前に座って
暫し二人を眺めていると


「お母さん、食べても良いの?」


心が遠慮がちに顔を上げた


「お母さんが作ったから
味は心配だけど食べてみて」


「お母さん、上手」


パチパチと手を叩いてくれる心に
私の不安な気持ちが晴れてくる


「でも、勿体ない」


良憲さんの口から出たのは
食べないかも・・・を連想させる言葉ばかりで


直ぐに溶けるはずもないのに
食べることを躊躇う二人に

少し意地悪を言ってみた


「暖房が入ってるから
食べないと溶けちゃうよ?」


「「えー」」


唇を尖らせるポーズもそっくり

その姿にフフフと笑うと


「あゆみ、ありがとう」


「お母さん、ありがとう」


とびきりの笑顔を見せてくれた


・・・幸せ






今日はバレンタインデー

去年までは檀家さんから頂いたチョコレートを三人で食べていたけれど


[バレンタインに向けて修行中]

寛子から届いたメールと添付されていた画像は

見ているこちらの頬まで溶けそうになる

手作りのフォンダンショコラが写っていた


手作りなんてしたことないと返信すると


“女じゃない”とバッサリ斬られた


そこでお手軽レシピを携帯で検索して
一昨日の二人が留守の間を見計らって

手作りしたものだった


「さぁ、早く食べないと
お迎えのバスが来ちゃうよ?」


未だ手をつけない二人を急かすと

心は少し泣きそうな顔をした後で
チョコレートに手を伸ばした

チョコレートも残したいけど
幼稚園にも行きたい

そんな心の揺れ動く気持ちが可愛くて


「来年もまた作るからね」


少し期待を持たせる

たった
それだけなのに


「ほんと?お母さん
また作ってくれる?」


心は一瞬でキラキラした笑顔になった


「・・・期待するよ」


ウッカリ心ばかりに気を取られる私の
頭を撫でて呼び戻した良憲さん


「うん、頑張るね」


笑って見せると
良憲さんは頭の上に手を置いたまま
少し困った顔をした


・・・ん?


どうしたんだろう
心にばかり気を取られたことがバレたかな?


そんな風に解釈した私は






* * *







「・・・んっ、・・・あ、あぁ」


「あゆみ」


「ぁぁあああ」




「・・・っや、・・・も、や、だっ」



「“もっと”・・・だ」







“チョコレート”のお礼と

心を幼稚園に送り出した後で

良憲さんに寝室へ連れ込まれ


朝から



動けなくなるまで甘く溶かされた



「心の出迎え行ってくる」


私の頭をひと撫でした良憲さんは
チュッとオデコに口付け


「心には調子悪いって言っておく」


耳元でそう囁くと
溶けそうな笑顔を見せてから

寝室を出て行った







あれだけ動いた筈なのに
動けない私と違って

私の身体を蒸しタオルで拭いて
着替えさせてくれた良憲さん












えっと・・・


バレンタインのお礼って
来月じゃなかった?









甘い誘惑 fin








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