気がつけば・・・愛

参観日




大きな瞳は良憲さん似


形の良い耳も良憲さん似


『お父さんみたいに』
そう言って坊主頭にしている心は

大勢の中では見つけやすい

黒板を真剣に見つめる瞳と

鉛筆と消しゴムを丁寧に扱うところ

問題が分かれば
天に届きそうなほど真っ直ぐ手をあげて


当たれば一生懸命に答えを紡ぐ


なんて我が子って可愛いのだろう

小学校へ通い始めて
心はとても成長した


お友達も沢山増えたし
お花の水やり当番も頑張っている

学年が進むごとに
その役割は責任のあるものへと移り

学校へ足を運ぶたび新しい発見がある


クラスメイトと笑い合う様子はまだまだ小学生

笑うとクシャリと崩れる顔は私かなぁ


マジマジと心を観察しているだけで


♪〜♪〜♪〜
気付いた時にはチャイムが鳴っていた


今月の参観日は授業を参観するだけで
そのあとにクラス懇談もないから

このまま帰ることになる

下校すればまた会えるのに


廊下まで心が出て来てくれないかなぁなんて

希望を込めて見つめてみる


女の子はお母さんを見つけると
直ぐに寄って来るのに

心は教室の中でお友達に囲まれているまま


・・・つまんない


男の子だから仕方ないのかなと思い始めた時


髪の長い女の子が駆け寄るのが見えた


「心く〜ん」


可愛らしい女の子は
お寺にもよく遊びに来る菜々子ちゃん


心の座る机の前に立った菜々子ちゃんは

手を机に置いたまま蹲み込んだ


視線を下げた心は
みんなと同じように笑顔で菜々子ちゃんと話し始めて


諦めて帰ろうとした瞬間


心の手が菜々子ちゃんに伸びた


「・・・っ」


笑顔で菜々子ちゃんの頭を撫でる心


周りのお友達もそれを笑顔で見ている


・・・えっと


なんだか胸がモヤモヤする


今時の小学校六年生って
女の子の頭を撫でるんだっけ?


燻る気持ちそのままにお寺に帰ると

お庭を竹箒で掃いている良憲さんが迎えてくれた


「どうしたの?」


どうやら私の気持ちは分かり易いみたい


「・・・ん、と」


モヤモヤする気持ちを吐き出せば


良憲さんはクスクスと笑い始めた


「・・・?」


「あゆみはね。菜々子ちゃんにヤキモチを妬いたんだよ」


「・・・そうなのかな」


「どこにモヤモヤしたの?
これまでみたいに外に出て来てくれなかったこと?」


「それは、六年生だし仕方ないのかな」


「じゃあ菜々子ちゃんと話してたこと?」


「違う、よ」


「ほら、答えは簡単
心が菜々子ちゃんの頭を撫でたこと」


「・・・」


「あゆみ。親になるって楽しいね
泣いたり、笑ったり、嫉妬したり
沢山の感情を与えて貰える」


「本当だ」


良憲さんの言葉だけで
胸のモヤモヤが一瞬で晴れた


「でもさ」


「ん?」


「僕も心に嫉妬してる」


「え?」


「だって、あゆみはいつも心ばっかり」


口を少し尖らせた良憲さんは
その顔を隠すように背中を向けた


・・・フフ


「嬉しいっ」


その背中に思い切り抱きつく


「わっ」


驚いた良憲さんをそのまま羽交い締めにした


『奥様の方が年下でしょう?』なんてお世辞を頂いても

遂に五十代に突入してしまった


そんな私に変わらない愛情を込めてくれる良憲さん


「良憲さん。愛してます」


意を決して伝えたのに


「大成功〜」


クッと喉を鳴らして笑った良憲さんは
私の腕の中でクルリと身体を反転させると


「実はね〜心への嫉妬は実は軽いんだ
だって。あゆみの身も心も全部僕のものだからね」


「僕も愛してるよ」とギュッと抱きしめた


白檀の香りに包まれて
愛しい良憲さんの胸に抱かれているだけなのに


ポロポロと涙が溢れ落ちる



良憲さん


幸せって


温かい



「あゆみ」


泣き虫だなぁって涙を拭いてくれる指も


ほら、温かい







参観日 fin




























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