気がつけば・・・愛

趣味はカメラ





「良い写真は撮れましたか」



ファインダーを覗く私の背後からかかった声に


「・・・っ」


勢いよく振り返った

この言葉は私にとって良憲さんに
初めて会った日と再会の日にかけられた大事な言葉


「・・・・・・良憲さん」


ククと喉を鳴らして笑うところを見ると

私が集中しているのを知って
足音を忍ばせて近付いたらしい


「驚いた?」


いたずらが成功した子供みたいに
その成果を待っている様子は心の笑顔と被る


「心臓に悪い、かな」


少し頬を膨らませて拗ねた風で良憲さんを見上げる


「二人になっちゃったから
たまには刺激も必要かな〜って」


更にククと笑う良憲さんの長い腕が伸びてきて

あっという間に腕の中に収められていた


「あ、ちょ、外なのに・・・」


此処は山門から上がってくれば
一番に目に付く場所だから

もしか誰かが訪れたらと思うだけで心臓が更に早く打ち始めた


「外じゃなければ良い?」


「・・・そう、じゃなくて」


言い訳を考える私に


「ごめん。意地悪言った」


甘い声で謝る良憲さん


「揶揄った?」


「うん」


それでも解放してはくれないらしい良憲さんの腕の中で更に頬を膨らませてみる


身長差もあってそれも見えていないはずだけど


「あゆみは可愛いね」


合わせ鏡で見られているかのように
良憲さんには分かるみたい


「もう良い歳ですっ」


態々口にしてみたものの
良憲さんに歳の差の話は通じないことは嫌と言う程知っているから


ムキになった自分が恨めしいだけだった


心はこの春、僧侶になる為の第一歩として
親元を離れた高校へと進学した


『辛い時も楽しい時も、心が一番に思い出すのが笑顔のあゆみであって欲しい』


毎日メソメソしていた私は
良憲さんのくれた励ましで

気持ちが切り替わり笑顔を取り戻すことができた


そうして・・・


心はいつもと同じように笑顔で旅立った


あれから・・・


二人きりの生活にも慣れて少し趣味のカメラを持ち出す時間が取れるようになった
 

被写体探しに余念がない私に
必ずイタズラを仕掛けてくる良憲さん

お陰で毎日が楽しくて
老け込む暇なんて全然ない


「あゆみは全然変わらないよ?」


そう言って目尻に皺を寄せた笑顔に
私も自然と笑顔になる


「良憲さんも」


「今の笑顔良いね」


「え?」


サッと取り出した携帯電話のカメラが
手を高く上げた良憲さんの頭の上からシャッター音を立てた


「ツーショットゲット〜」


「や、今の消して、欲しいっ」


不意打ちなんて狡いっ
絶対間抜けな顔だった

私のカメラに対抗して、あ、違うか
『自分も』なんて
もっぱら携帯電話で写真を撮る良憲さんには
コッソリ隠し撮りされることがある


いや・・・被写体は、ほぼ私


依然良憲さんの腕の中に捕らえられたまま

手を伸ばして携帯電話を奪おうとするのに

空に向かって高く上げられた手には
そもそもの身長差もプラスされて全く届かない


「どんなあゆみも可愛いって」


「そうじゃなくって」


愛しい旦那様の記憶に残る私は
いつまでも可愛くありたいって思うの


言わないけど・・・


「こんなに愛しいあゆみだよ?
鼻水垂れてても可愛いに決まってる」


「・・・そんなの嫌に決まってる」


「フフ、あゆみ可愛い」


「もぉ」



最終的にいつも良憲さんの“可愛い”口撃に負けて思惑通りになるって


狡いよね?





趣味はカメラ fin










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