バイバイ☆ダーリン 恋心編  番外編完結しました
休憩を挟んでの3時間程の練習が終わったのは、夜の7時を回った頃だった。

『夕飯食べて帰るぞ。今日は母さんも千津さんも出掛けていて留守だからな。父さんも接待が入っていたはずだ』

ちなみに千津さんとは、嵯峨野家の住み込みの60代のお手伝いさんで、他にもう一人通いの50代の女性がいる。

悠輝が理人を見やりながら、花音と桜子に今夜は外食するぞと言った。

妹と自分の彼女はお嬢様であるので、それぞれの家にはお手伝いさんがおり、食事の支度などの家事は全くしない。

でも、学校の調理実習でやるような、ハンバーグを作ったりご飯を炊いたりは出来るはず…なのだが。

悠輝は女子二人が料理が出来ようがなんだろうが、外食するつもりのようだ。

『イタリアンに予約入れたからな。おい、あれ見ろよ…まったく…理人の奴、花音を差し置いて、また女が違うじゃねえか』

悠輝が言うように、理人には許婚の花音がいる。

それにもかかわらず、2~3ヵ月毎に隣を歩かせる女を替える。

いわゆる“取っ替え引っかえ”と言われることを平然としているのだ。

婚約後直ぐからその事実を目の当たりにして来た花音と悠輝は、解せない思いを隠せずに眉間に皺を寄せて理人を見やる。

一方の理人はと言うと、暢気にも鼻の下を伸ばしながら、名前も忘れてしまった歴代のカノジョ達へ向けられた眼差しとは全く違う、彼が今カノを愛しいものを愛でるような、そんな表情になっているなどとは本人も気が付いてないであろう。

理人はカノジョの腰に手を回し、イチャイチャしながら夜の闇に消えていった。

『何あれ?理人ってば花音ちゃんが何も言わないことを良いことに、好き勝手してるんだから』

桜子は憤慨しながら花音の様子を覗う。

花音は居たたまれなくなり、言葉をなくして俯いてしまった。

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花音が中学1年になったばかりの頃、嵯峨野と林葉の両家の話し合いにより、理人と許婚となった。

要するに政略結婚の愛のない関係の始まりを、まだまだ大人ではない男女二人に親達が強要したのである。

まあ、その二人の内の可愛らしい女の子の方はと言うと、淡い恋心を相手に抱いていたのだが。

そんな許婚とは名ばかりの婚約をして5年と言う短くない間に、理人の女性関係はだらしなくなる一方で、花音や兄や母親は困惑していたのだが、花音の父親と林葉家側そして当の本人の理人は、結婚までは男は遊ぶものと言う認識のようだった。

実のところ花音の父親は、結婚まではそれこそ理人のように女を取っ替え引っかえしていたそうで、それを知った母親は激怒し、結婚を取り止めたいと当時婚約していた花音の父親に詰め寄ったそうだ。

まあその後は仲直りして現在に至るのだが…。

しかし母親によると、結婚してからも度々、浮気相手と思われる女が家にやって来て、父親とのあることないことをぶちまけて手切れ金を要求するのだそうだ。

母親もすっかりそれに慣れてしまったようで、反対に慰謝料請求すると脅して相手を追い返しているのだとか。

そもそも花音の父親は会社経営者で、50歳代前半とは思えない程の若さでイケメン俳優並の容姿をしており、さらに自由になる金を持っているのだから、モテないはずがない。

そして元来の女好きとくれば、言わずもがな。

だからと言って両親の仲が悪いと言う訳でもなく、この夫婦どうなっているんだろうかと、花音と兄は首を捻る。

母親曰く『長年夫婦をやっていると、お互いがどうでもよくなることもあるのよ!それにしても、悠輝が真面目に育ってくれて良かった。お父さんの真似なんかしちゃダメよ』だそうだ。

『…』

憐れな兄妹達は、母親が暗に自分達の父親との関係が、お金だけの繋がりとでも言っているようで、複雑な心境になってしまった。

そして兄妹二人は幾つになっても誠実に生きていこうと、心に決めるのだった。

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