お見合いだけど、恋することからはじめよう
Prologue

その日、めずらしく父が早く帰ってきた。
といっても、本来は休日の土曜日なのだが。

あたし……水野(みずの) 七海(ななみ)の父親・茂彦(しげひこ)は、元は大蔵省の管轄下にあったが、省庁再編で現在は内閣府の外局にある金融庁の、証券取引等監視委員会というところに勤務している国家公務員だ。

わが国の最高学府(大学)の中でもトップに位置するT大学を卒業して当時の国家公務員上級甲種試験を突破した、世間でいうところの「キャリア官僚」である。


あたしたちはダイニングテーブルに座って、晩ごはんを食べていた。

いつものようにごはんを食べ終えて、まったりとお茶を飲んでいると、

「……七海、おまえ、見合いする気はないか?」

いきなり父からそう訊かれて、あたしはそのお茶を食道にではなく気管に入れてしまった。
びっくりした気管が拒絶反応を示し、盛大に()せ込んだ。

「あらあら、七海、大丈夫?
……もう、おとうさんが急にお見合いの話をするから」

母がぎろり、と父を睨んで、あたしの背中をさすってくれる。多忙な父はせっかちな性格もあって、いつも「最短距離」で話を進める。

「……あぁ、悪かった、七海」

父はすまなそうな目をして、あたしを見た。

職場では(たぶん)鬼のように厳しい上司だと思うのだが、家庭では母・姉・あたしと女ばかりに囲まれているから、かなり形勢が不利である。

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