その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 謝っても仕方のないことだとはわかっていたが、それでも話をしたかった。だがその機会さえ与える気はないということか。

 以来、彼女へ連絡をつけようとしても、手紙も使者でさえ、グレアム家の使用人にあえなく突き返されていた。

 フレッドは優美な曲線を描く椅子のひじ掛けに頬づえをつく。

 侍従のおかげでなんとか身繕いはしているものの、髪は伸び放題で目もとのクマも取れない。頬の肉は削げ、顎の線が前より鋭くなった。かつては端正な容貌で社交界を沸かせたのが、今は見る影もなかった。

「そんなお前にこれを言ったら、全ての職務を放棄されそうで気が進まないな」

 サイラスがけぶるような金髪をがしがしとかいた。

「なんだ? これ以上まだ何かあるのか?」
「悪い話がまだだったろ。リリアナから聞いたんだが。いいか、落ち着いて聞けよ……」

 二人しかいない執務室であるのに、サイラスはフレッドのすぐそばまで寄ると、声をひそめた。
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