その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 その頃から徐々にフリークス辺境伯領が抱える私兵の数が増加した。

 特に夏の長雨と春先の雪解け水による増水の時期は顕著だった。国王軍もかくやというほどの数の兵が、ユナイ川に沿って寸分の隙もなく配備される。

 最初は、氾濫の被害を抑えるためだと思った。実際にそういった意味もあっただろう。しかしその時期の国境付近の情勢を注意深く調べると、同時期にリデリアからの侵入者が増えることが明らかになった。
 私兵の増強は国への叛意ではなく、隣国からアルディスへの侵入を防ぐためだったのだ。
 しかしラッセルの報告はなぜか軍から軽微なものとして扱われ、逆に宰相の不審をフリークスに向かわせることになった。

 彼はますます私兵を増強せざるを得なくなった。悪循環である。

「資産のないフリークス家が兵を増強するためには、どこかから金を得る必要がある。宰相を説得するには時間がかかるが、そのあいだに娘がいつまた襲われないとも限らない。だから貴方は領民から納められた税金に手をつけた」

 ラッセルが組んでいた腕を解く。ややあって深く息を吐く音が聞こえた。

「あれの瞳は母譲りでね。綺麗な色をしているだろう、アルディスでは珍しい」
「ええ。神秘的な色合いをしていますね」
「髪の色以外はあれの母にそっくりだ。麗しい女性だった。多くの男があれの母に夢中になった。私もその一人だった。焦がれるあまり、リデリアからさらって妻にした」

 さらりと告げられたその内容に、フレッドは驚き目を瞬かせた。
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