社交シーズン終了と同時にオリヴィアは領地に戻った。そのため、フレッドと会わなくなってはや三ヶ月が経つ。

 あと九ヶ月もすれば嫌でも彼とは夫婦になる。

 もしかして彼は今ごろアイリーンと会っているのだろうか。賭けには好都合だけれど、そう思うたびになぜか胸がざわめいてしまう。

 だから、父親の用事にかこつけて、一年のほとんどを王都で過ごすという彼を訪ねたのは、ほんの出来心だった。

 連れてくるからサロンで待っていて欲しいという執事の申し出を断り、彼のいる場所まで案内してもらう。

 フレッドはタウンハウスの裏手にある厩で、一頭の馬を愛しそうに撫でていた。


 なにか侵しがたい雰囲気だった。オリヴィアは声をかけるのも忘れて見惚れた。

 なんて優しい目をしているんだろう。
 フレッドが「リリス」と声をかけると馬は甘えるように彼に頭を擦り寄せる。馬を撫でる手つきからも労る気持ちがあふれている。

 いつもの上辺だけの笑みとは大違いだ。

 不意に、気配に気づいた馬がこちらを向いた。フレッドも同時にこちらを向く。その顔には驚きと戸惑いがあって、オリヴィアはきまりが悪くなった。

 これでは覗き見していたみたいだ。堂々としなければ。

「オリヴィア、どうしてここに?」

 もっとさっきみたいな顔をなさればいいのに。

 フレッドがつくろった笑顔に反射的にそう思って、自分で自分に驚いた。その感情をすぐさま頭から追いやる。

「貴方がここにいると聞いて案内してもらったの。ごめんなさい、すぐ帰りますので」
「いや、こちらは構わないですが。すみません、本来ならあなたの手を取るところですが、この通り馬の世話をしていて綺麗とは言い難いので」
「気にしませんわ」

 フレッドは肩をすくめ、ひらひらと手を振った。オリヴィアは思わずくすりと笑ってしまう。その様子に何を思ったのかフレッドの目が細められる。

 何かまずかっただろうか。彼女はとまどって視線を馬の方へ逸らした。

「ご自身で世話をなさるのですか?」
「ええ。こいつとは共に育ったようなものですから。こいつは僕にしか懐かないんです。それに、こいつだけはいつも僕の味方だ」

 フレッドが、かたわらの馬の背をぽんぽん、と軽く叩く。

 オリヴィアは面食らった。彼の表情は相変わらずだけれど、ほんのわずかに彼の孤独が垣間見えたような気がしてどきりとする。