その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編

「綺麗な馬ですね」
「そうでしょう。これでなかなか軍馬に劣らず足腰が強いんですよ。女の割に、頼もしいやつです」

 フレッドが生き生きとしている。それと反対に、オリヴィアの心は重く沈んでいった。

 彼がアイリーンと親しいことは気になるものの、最初から覚悟していたことでもある。それよりも彼女の要求をのんでくれた彼に、彼女は安心感のようなものさえ寄せていた。

 けれどフレッドは最初から、半年後に別れるつもりでいるのかもしれない。

 だったら半年後といわず、今すぐ婚約を破棄してくれれば……違う、こちらから今すぐ破棄するべきなのだ。

 けれどこの婚約が白紙になればまた別の相手をあてがわれてしまう。それがカイルのような相手だったらと思うと怖くて、すぐに決断できない。

 自分の身勝手さに気分が悪くなった。

「オリヴィア?」

 常よりも心配気な声で覗きこまれた。その声にさえ罪悪感をあおられる。

「何でもないわ。近くまできたのでお元気にしていらっしゃるかしらと思って、立ち寄っただけなの。邪魔をしてごめんなさい。ではこれで失礼します」

 声が震えるのを悟らせまいと笑顔でまくしたてて、オリヴィアは身をひるがえそうとした。

 その手を、フレッドがつかんだ。
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