人々のさざめく気配は馬車を降りたときから伝わってきた。思い思いに着飾ったご婦人たちが、エスコートの差し出す手を取り王宮に吸い込まれていく。社交シーズンはすでに終わったけれど、今日は収穫祭の舞踏会とあって、国中の貴族が出席するのだ。収穫祭の舞踏会は昼から始まり、夜中まで続く一大行事である。中からはすでに軽やかな音楽が秋の乾いた空気に乗って聞こえていた。

 オリヴィアもフレッドとともに大広間に入る。国王を始め王族への拝謁を終え、最初の一曲を踊った。
 その流れはシーズン中と変わらないはずなのに、彼女には今日のフレッドがいつもと違う気がして、ダンスの間も落ち着かなかった。

 思い返せば、迎えに来てくれたときから彼はどこかおかしかった。いつも流麗な仕草で挨拶をするのに、今日はオリヴィアを見るなり瞬き、眩しそうに目を細めてじっと見つめてきたのである。一言もなく。

「フレッド様? お久し振りです」

 今日のオリヴィアの装いは、ごく淡い黄色のサテン地ながら、光の具合で銀色に波打つドレスだ。華やかさはないものの、まるで冬の夜にさえざえと輝く月光のような色合いである。碧の瞳はさながら月下の深い森といったところだろうか。

 けれど、ここのところなかなか寝つけなかったのが災いして、今朝は目もとが浮腫んでひどいものだった。
 原因は目の前の人である。領地でオリヴィアのしたことを「卑怯」で「人が悪い」と冷たく言い放つ姿と、相反するさり気ない優しさに混乱するのだ。
 今日はまた薄い笑みを見せられてしまうんだろうか。自分はどのように接したらいいのだろう。なにより、今日にでも彼に触れて賭けに負けた方が彼のためにも良いのではないだろうか。

 そんなことを考え出すとキリがなくて眠れなかったのだ。

 ともかく、今日は浮腫みを隠すために心持ち濃いめに化粧を施してもらっている。あまりじっと見られては困るのである。

「……あ、ああ」
「フレッド様? お加減が優れないのでしたらお休みになられた方が……」

 踊り始めたものの、やはり気になって腕を引こうとしたら、くんと力をこめて引っ張られた。かと思うとはっとしたように力を抜かれる。

「いや、身体は何ともないよ」

 そう取りつくろってはまた目を細めて彼女を見つめるので、なんとも居心地が悪い。