その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
五. 再会は痛みとともに
 夏も終わろうかという時期に特有の、もわりと熱気のこもった空気が、名残惜しそうに王都を包む。

 オリヴィアはこの日、今シーズン初めて社交場に顔を出した。王都のグレアム公爵家で催される夜会だ。

 グレアム公の娘としての御披露目をしなければならなかったこともあるし、なにより自家で催すものなら負担も軽いだろうと、マルヴェラが勧めたのだ。一日中することもなく、ぼんやりと公爵家の温室(コンサバトリー)にこもっていた彼女にとって、煌びやかなシャンデリアの光が注ぐ場はずいぶんと久し振りだった。

 人々の無遠慮な視線が突き刺さる。エスコートをするグレアム公の手前、声高に言う者はいないけれど、ひそひそと交わされる言葉は彼女の耳にも届く。

「お父上が罪を犯したというのに、堂々と公爵家の養女におなりになって、恥という物を知らないのかしら」
「案外、してやったりと思っていらっしゃるのかもしれませんわよ。なんせ辺境伯から公爵家へ『格上げ』ですもの」
「だからあんな笑顔でいらっしゃるのね。嫌ですわ」

 そうした台詞が飛び交うにつれ、オリヴィアの足取りは重くなる。

 彼女は意識して自分を奮い立たせ、姿勢を正さなければならなかった。
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