国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
2.朝のすべて
 昼食とティータイムを終えて、夕食の下ごしらえをしたあと、ノエリアは自分の部屋にいた。少しだけと思いソファーで読書をしていた。そのうちいつの間にか眠ってしまったらしい。窓の外から聞こえる音で目が覚めた。

「え?」

 窓にぶつかる風の音だった。それと、パチン、パチンという小さな音。

「たいへん! マリエ!」

 天気が急変したらしく、窓から見える空は灰色の雲で覆われていた。

 部屋から出ると、マリエが「大変、雨!」と言いながら外へ出ていくところだった。ノエリアも一緒に洗濯物を屋敷に入れた。幸いにも洗濯物はたいして濡れずに済んだ。
そして、段々と雨足が強くなってくる。

「あんなに天気が良かったのにね」


「急変ですねぇ。嵐でしょうか」
「すぐに治まればいいのだけれど。大荒れになると困るわね」

 道が悪くなるし、そうすると村への道が寸断されてしまったりする。それは勘弁して欲しい。数年前も、大嵐になり道が通れなくなってしまったことがあったから。

 様子を見ながら、早めの夕食を取ることにし、カボチャのスープを作り始める。

 蒸かしたカボチャを裏ごししたものに牛乳を加えて、塩味を付ける。畑で収穫した玉ねぎを柔らかくなるまで炒め、盛るようにして添える。これは、歯ごたえを楽しむため。

 天気を気にしながらの仕度は落ち着かなかったけれど、とりあえず、皆の分を準備できた。パンもあるし、カボチャのスープは多めに作ったし、明日も食べることができる。
 既に日が落ちていて、窓の外は暗い。

 ノエリアは、ガタガタと窓が音を立てたのでびくりと肩を強張らせた。

(もう夜だし、寝る前に畑の様子を見に行ってこようかしら)

 トレーに、ヴィリヨの分を取り分けながら考える。

「ノエリア様、こちらヴィリヨ様にお持ちします」

「お願い……ちょっと、わたし外の様子を見てくる。畑も心配だし」

「風が強くなっているみたいです。お気をつけて」

 マリエが、濡れるのを心配してスカーフを渡してくれた。ノエリアはそれを被ると、ランプを持って、玄関ドアを開けた。


「……わっ」

 やはり風が強い。木のドアが持っていかれそうになる。闇の中、地面や屋敷の壁を叩きつけるような雨が降っていた。ノエリアはびしょ濡れになるのを覚悟し、外に出た。地面はぬかるんでいた。風と雨のせいで肌寒い。顔に雨を受けながら畑へ行くと、芽が出たばかりの場所をランプで照らした。まだ流されたりはしていないようだったが、念のため防護策を施そうと、これまた強風で吹っ飛んでしまいそうなボロボロの物置に行き、針金を持ってくる。

(せっかく発芽したのに、ダメにしたくない)

 ノエリアは被ったスカーフが飛ばされないよう頭に結びつけた。スカートが水分を吸い込み重くなってくる。ノエリアは早く作業を済ませてしまおうと急いだ。
 芽が折れたりすることを防ぐため、針金でアーチを作り、藁で覆う。なにもしないよりはましだろう。

(針金と藁よりも、お金さえかければもっと頑丈な防護ができるのに)

 口惜しかったが、文句を言っても始まらない。
 ひと通り防護を施したら、畑を見渡した。

 畑の向こうにある林の木々が風で擦れ、まるで唸り声をあげているようだった。ノエリアは恐怖を覚え、明日、嵐が止んだらまた見に来ようと思い、屋敷に戻ろうとした。


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