無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「伊藤さん、ここはランニング教室もやってるんでしょ?伊藤さんはインストラクター?」

「はい。専門は中距離ですが、フルマラソンも走ってますよ」

「よかった。私達もこのフルマラソン完走コースに参加したい」

ウィングライフサポートでは、各インストラクターが企画した短期集中型の教室を用意している。中でも、気軽に参加できて特殊な能力を必要としないランニング、マラソンは通年で人気が高い教室だ。

「はい、今50代のご夫婦と、会社関係の男女4名様が申し込まれてますので後2名は空きがありますよ」

「やった!」

前田と原は嬉しそうに頷いた。

「ところで、羽生さんはフルマラソン走ったことあるの?」

突然、前田に話を振られた駿太郎は動揺が隠せない。いつもの無表情に動揺が見られて、彩月は思わず目を見開いている。

「いえ、私は新しく配属されたばかりでして,,,」

「でも、羽生さんも伊藤さんと一緒に教室に参加するんでしょ?練習は一緒にするんだよね?羽生さんみたいなイケメンが一緒に走ると思うとテンション上がるわー」

「こら、現金な奴め」

原が前田の頭を小突く。てへっ、とおどける前田。

二人は商品のかごに購入品を入れると

「精算をお願いします」

と彩月、駿太郎と共にレジに向かった。

フルマラソン完走コースは、フルマラソンまでの8ヶ月間、月1回のペースでフォローが行われる。ターゲットは12月の大会だ。初心者なので時間をかけて練習する。10月にはハーフマラソンの参加も視野にいれる。

前田と原は、商品購入と同時に、フルマラソン完走コースへの参加申込書に記入した。

「それでは、毎月第二週の金曜日18時から練習を開始しますね。こちらのテナントに集合ください。必要なものはこちらに記入してあります」

彩月は笑顔で言った。

「わかりました。では、伊藤さん、羽生さん、当日楽しみにしていますね」

前田は駿太郎に、原は彩月に握手を求めて、満足気に去っていった。

「これ、俺も参加?」

「仕事だからね」

駿太郎は

「はぁ」

と溜め息をついた後、彩月を見つめた。相変わらずの笑顔だ。

「やるしかないのか,,,」

幸いにも、フルマラソン完走コースは初心者向け。取り敢えず、教室のスタッフらしく振る舞うために、ジャージとランニングシューズの購入を検討し始める駿太郎であった。


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